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稲荷崎に戻ってきて、最後のミーティング
3年生は笑って引退した
戻ってきている荷物を簡単に片付けていると
1列に並んだ3年生が体育館に向かってお辞儀をした
「「「ありがとうございました!!」」」
勝利にこだわる、挑戦者の稲荷崎
その中でも礼儀を重んじる優しい先輩たち
『…、』
中学の時は、先輩の引退の時もこんな気持ちにならなかったのに
言葉に表せない気持ちに心臓がぎゅっと痛くなる
明日からこの人たちはいない
「A
1年間、ほんまにありがとうな」
「俺らの時は1年が雑用やったからさ、Aがどんだけ頑張ってくれとるかも分かってるし、
有り難さも身に染みて感じとるんよ」
「初めは女の子がこんな男臭いガチガチの体育会系のマネージャーなんて大丈夫なんか、って思うとったけどAでよかったわ」
「短い間やったけど、世話になったな」
体育館へ向けた挨拶と同じように
ふたつも年下の私に、頭を下げる先輩たち
『わ、私の方こそ…
本当に至らぬことばかりで、ご迷惑も沢山お掛けして…、』
「やから、かたいっちゅーねん!」
先輩たちはからっと笑って
「俺らは引退するけど、あいつらのこと頼むな」
「もう選手ちゃうねんから、迷惑とか考えずに甘えてええからな」
「俺らにとって初めてで、唯一の後輩マネさんやもん
先輩にもええかっこさせてや〜」
『…はいっ!』
「俺らもう少し体育館おるから適当なとこでAも帰り。
疲れてるやろ」
多分、今からは
3年生だけの時間
『はい』
大体の荷降ろしを終えて
『あの、』
「うん?」
『1年間、本当にありがとうございました
…先輩達がいてくれて良かったです。
えと、これからも頑張ってください』
こういう時、なんて言うのが正解は分からなくて
おそるおそる顔をあげると
先輩たちは
目を丸くしたり
口角を上げて微笑んだり
涙ぐんだり
様々な表情で
だけど最後には、嬉しそうに笑った
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先輩たちが引退しても
私たちの毎日は変わらずにやってくる
「新キャプテン、誰になるやろな」
「アランくんやったりして」
「部崩壊すんで」
「
「あえてのダークホース、赤木さんやったりして」
前を歩く双子と銀の会話に、倫はさほど興味が無さそうにあくびをした
「Aは誰だと思う?」
『…北さん』
倫は細い目を少し見開いて
「まぁ、そうだね」
と頷いた
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作者名:りな∞ | 作成日時:2023年11月6日 1時