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「ん」
朝練終わり、教室に向かう前
目元を覆う私に治がハンカチを押し付ける
『…ハンカチ持ち歩くようになったの？』
「ないとこーゆー時に困るからな」
ぶっきらぼうで、
でも優しい
「今は俺しかおらんねんから隠さんでええやろ」
治の作ったおにぎりを食べた瞬間、目から涙が零れ落ちた
いつも眠たげに半開きの瞳をまん丸にして
「泣く程あかんかった!?」
と慌てる治は
『…美味しい』
絞り出した言葉に
「泣くほど美味いってことやな」
と笑った
朝一番、体育館にはいつものように北さんがいて
いつも通りの日常の中に、治がいて
「あ！おはよう！
なんか手伝えることあるか？」
「銀邪魔。
Aー英語の訳後で見して」
「角名、それは自分でやらなためにならんで」
「げ…北さん」
「げってなんや」
「なんでもないです。すいません」
いつもと変わらない
ようで、どこかぎこちない
「A！いじめられたってほんまなん？
次なんかされたら俺がこてんぱんにしたるからいつでもいいや！」
「路成！今はそっとしとけ言うたやろ！」
「ブロックは赤木さんより大耳さんのがええんちゃいます？
顔怖いし」
「俺顔怖いんか…？」
「コラ治！この人図体の割に繊細なんやから」
「アランくんバックつけたら最強ちゃう？」
「なんでやねん」
深夜のラジオみたいに
ずっと聞いてられるわちゃわちゃ
「何ぼーっとしてんの。早くおいでよ」
おいでってすくい上げてくれる、優しい声
ずっと気を張っていた
少しでも緩めたら、泣いてしまいそうで
妬まれる事なんて分かってたじゃないか
何も知らない外部の意見がなんだ
目の前の
進化し続ける
堂々と前を向いていればいい
そう思ったはずなのに
ー
“A、すまんな。いつも同じのばっか飽きたやろ”
父も母も料理が得意ではなかったから
出てくるものはワンパターン
『いいよ。自分で作れる』
ちゃんとしなきゃ
いつの間にか反面教師のように
美しい美貌を持つ何も出来ない母親と反対に
感情を隠して、生きるために必要なことを淡々とこなす日々
“寂しい思いさせてごめんな”
『…大丈夫』
治のおにぎりは少し不格好で
ふんわりにこだわっていたから、潰さないようにあの大きな手で優しく握ったんだと思うと笑えてきて
同時に
涙が止まらなかった
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作者名：りな∞
| 作成日時：2023年11月6日 1時
