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「Aちゃんももう帰るん?」
『…』
「ほんなら一緒に帰ろ」
そう言って隣に来るくせに
バス停に向かう間も侑は一言も喋らなかった
ただ、黙って歩く彼の長い足で
ちんたら歩く私の歩幅を気遣ってくれていることは分かる
バス停についてからも、沈黙のまま時間が流れる
「バス、来たな」
『うん』
「ほな、また明日」
手を振ってバスに乗り込む
「明日、やんな?」
侑の瞳が揺れる
『…うん』
奥の席に座り
扉が閉まるアナウンスがかかり
目をやってもう一度手を振ると
『なに、してんの』
「…わからへん」
ギリギリのところで侑が飛び乗ってきた
『すぐ言って下ろしてもらえば…っ』
「送る」
『え、』
「部活もないし
家まで、送る」
『なんで…』
「だって、Aちゃん
1人でおりたくないような顔してんねんもん」
『……』
震える手を重ねて必死に振動を殺そうとしていると
侑の大きな手のひらが私の両手をおおった
『なんで、殴ったの』
「ムカついたからって言うたやん」
『いつも、ほざいてろ雑魚がって見下して
手なんか出さなかったじゃん』
「おん」
『侑にとっては…っ
何よりも大事でしょ、バレーボール』
ご飯も友達も恋人も
彼の中でバレーボールに勝ることはない
「うん、ごめん」
『なんで謝るの…
怒らなくていいんだよ、私なんかの為に
侑が手を下す必要なんて…』
「それは俺が決めることや」
『…』
「俺の感情を決めるのは俺で
Aちゃんやない」
『…侑まで、変な目で見られるんだよ』
「俺はうじ虫に何言われても気にならへんもん」
『…聞かないの?あれが本当か』
「なんで?」
『侑が1番嫌いな人種でしょ
女を武器にして、強いモノに寄生する』
「関係ないやん
他の誰が何してようがAちゃんはAちゃん以外の何でもないやろ」
『…』
「気にする意味が分かれへん」
北さんも同じように言ってくれた
私は私だって
ここはどうしてこんなにあったかいの?
「前に、俺に似てる子がおるっていうてたやろ」
『…』
「どんな子やったん?」
侑との買い出しの日、連れ出された治から彼らの中学時代の話を聞いた
“あんなんやから、人間関係築くの下手やねん”
治が呆れながら語った侑の話は
聞き覚えるのある話によく似ていて
『コート上の王様』
「王様?」
『性格とか話し方は全然似てないけど』
目を閉じると
「A!」
明るい顔で私を呼ぶあの子の顔が浮かんだ
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作者名:りな∞ | 作成日時:2023年11月6日 1時