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『治に、侑のこと嫌いになってないかって聞かれたことがあるんです』
北さんは目だけをこちらに向けた
『でも、綺麗事じゃなく本当に彼のことを嫌いだと思ったことはなくて
…それは傷つけてしまった知り合いを、侑に重ねてるからなのかなって』
「知り合い?」
『その子もバレーやっていて
セッターなんです
天才だってもてはやされていて
コートの王様って呼ばれてました』
「…」
『私は、天才の彼が向けるお前ならもっとやれるのにって期待の眼差しが怖くて、プレッシャーで
失望されるのが怖くて
酷いことを言って、あの子から逃げたんです
口下手だけど、真っ直ぐで努力家な彼から目を背けて
孤立していくあの子を、切り捨てた』
だから侑に飛雄を重ねて
『許されたかったんです
侑を受け入れることで、やり直せるんじゃないかって』
優しさなんかじゃない
倫が言うような真面目なんかでもない
『そんなの、ただの自己満足で
私が1人で罪滅ぼしをした気になっていただけで、あの子は…
残されたあの場所で1人ぼっちになってしまった』
コートに佇んだ飛雄の背中が目に焼き付いて離れない
『稲荷崎で受け入れられる侑を見ながら、彼もきっと上手くやれるって
そんなわけないのに
私、こうなるって分かってたのに』
「別に南のせいやないやろ」
『え?』
「王様が孤独やったとしても、それはその環境を作った本人や周りに原因があって南のせいやない
そもそも侑とその子は別の人間やし、その後ろめたさを侑に重ねるんはちゃうと思う」
『…はい』
「【天才】ってなんなんやろな。それは誰が定義すんの?」
『それは…、』
「侑はたしかに才能やセンスも抜群やと思うけど、それだけで言うたらそんなヤツら沢山おるやろ?
そいつらはみんな天才になるんか?」
『…』
「せっかく才能があっても燻って腐るやつもおる
そん中で、あいつらみたいに一際目を引くんは、その力にかまけずに努力してきた奴らやと思うねん
生まれつきセンスがなくても努力でそれをひっくり返して這い上がる奴もおる
それは【天才】とはちゃうんか?」
北さんは静かに続ける
「俺には、みんなのいう【天才】がよう分からん
努力を続けることやって十分な才能やと思うし」
『…はい』
「アイツらみたいな奴を見て、自分には才能がないんやと諦めていくやつもおる。
それが別に悪いことやとは思わんし、そいつ自身が決めたことになんの不満もないけど
勿体ないなって思うねん」
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作者名:りな∞ | 作成日時:2023年11月6日 1時