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『もう一本お願いします!』

「…一旦休憩」

『え、』

掴みかけてるのに、と見上げる私に

「集中力、切れてきてるやろ
そういう時に無理しても逆効果やねん」

お兄さんは自販機で買ったペットボトルを差し出してくれる

『え、そんな、いただけません』

「固すぎやろ」

ええから、とペットボトルを押し付けてベンチに腰掛けるお兄さん

お礼を言って渋々受け取る



そういえば、


『お、お兄さん高校生ですよね? もしかして、部活中じゃ…』

すみません、と顔を真っ青にして謝ると

「部活は休み。自主練で走り込みしてただけやから気にせんでええよ」

と無機質な声のまま言った

「自分はなんでこんなとこで1人でバレーしてたん?」

『…球技大会が、近くて』

ああ、と頷いたお兄さんも
なんでみんなと練習しないんだろうって思ってるのかな


『私、下手くそすぎてみんなとやっても練習にならなくて…』


聞かれてもいないのに、口が滑る


『たかが球技大会なのになにムキになってんだって感じなんですけど』


ずっと黙って聞いていたお兄さんが、口を開いた


「たかが、とかないやろ
何事も手を抜かずにやる。大切なことや」

真っ直ぐな瞳に吸い込まれそうになる


『私、逃げてばっかりで…

ここにも、逃げて来たんです』

公園だけじゃない

地元からも、お母さんからも


「俺は逃げることがあかんこととは思わへんけど

そうしてる自分が嫌なんやったら戻ったらええんちゃう?」

『え?』

「逃げてきたってことは、戻る場所があるってことやろ?」


『もう、戻れないとしたら?』


「過去に戻ることは出来なくても、その場所で新しい何かを築くことは不可能じゃない」



『…私、陸上をやってたんです

早めに来た成長期のおかげで小学生の時は背が高かったから、そこそこに足が早くて

…それを、才能だと過信して』

中学に上がりピタリと伸び悩んだ頃に
周りはいつの間にか緩やかに成長を続け

隣に並ぶあの子も、私より大きくなった

単純にストライドの広さが優位だった私は
呆気なく周りに抜かれて


それならばピッチを早くするしかないと練習を繰り返した

努力しても、努力しても埋まらない差に

その背中を追うのを辞めてしまった



「A、陸上続けるでしょ?」

『続けない』

「なんで?」

『楽しくないもん』

好きなことに全力で
才能もあって、全身でもっとやりたいって叫んでる

“天才”が私に向ける期待に満ち溢れた目が嫌いだった

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りな∞(プロフ) - まゆさん» コメントありがとうございます!これからも心を揺らすお話をお届け出来るように頑張ります!楽しんでいただけると嬉しいです🥺 (10月29日 20時) (レス) @page45 id: 6423446c77 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ(プロフ) - 心がギュッとなってとても動かされました!!続きがとても気になります🥹 (10月29日 14時) (レス) id: 9f951b305f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:りな∞ | 作成日時:2023年10月9日 4時

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