繋いだ手10

少しずつ変わってゆく ページ27

真司郎side


あの頃の話をする時、俺が口癖のように言ってきた後悔の言葉。


それを口にするたびに、Aは困ったような顔をしていたから、俺が今もずっと後悔してる事をわかっていたんだろう。


そんな俺の胸の中を見透かしたように言ったAが話してくれたのは…。


新しい環境に慣れるのがまずは先だったという事


心の余裕を持つ為に、あの1年が必要だったという事


あの1年の中で、お互いに思いやる気持ちをもてた事


あの1年があったから、心と想いは繋がってると信じられた事。


あ「あの1年で、新しい環境に慣れる事ができ
　 て、真司郎も私も心の余裕を持つこともでき
　 た。
　 だから、恋人同士になってからの私達は、
　 お互いに思いやる事ができたし、どんなに遠
　 く離れていても、心と想いは繋がってるから
　 大丈夫だって信じることができたんだって、
　 そういうふうに考えられないかな…。」


俺の中で、少しずつ、後悔が形を変えてゆく。


あ「だからあの1年は私達にとって意味のあるもの
　 で、すごく大切な時間だったんだよ。」


優しいAの声と言葉が、直接胸の中に入ってくる。


あ「それにね？古い言い方かもしれないけど、
　 会えない時間が愛を育てるって言うでし
　 ょ？」


自分が言った事に照れたように笑うA。


あ「私はあの1年で、もっともっと、真司郎の事
　 好きになったよ。
　 そばにいない人の事を考えて、想いを重ねて
　 いくのも、私達には大切な時間だったんだっ
　 て、今なら思えるの。」


…Aの言うとおりや。


どんなに遠く離れていても
同じ時間を過ごせなくても
いつ会えるかわからなくても
俺の気持ちは離れるどころか募るばかりやった。


想えば想うほど、好きな気持ちは積み重なっていって、愛おしさが大きくなっていったあの1年。


後悔もたくさんあったけど、俺は出逢った頃よりも、ずっとずっと、Aの事好きになってた。


あ「だからあの日の、あの時の真司郎は、
　 間違ってなんかない。もちろん、私も。」


振り向いたAは、俺の手をとってきゅっと繋ぎ、真っ直ぐに瞳を見つめて言ってくれた。


あ「だからもう、後悔しないで？」

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