繋いだ手10

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あなたside


あ「あの日、楽しかったね。
　 2人で色んなお店見て、手繋いで歩いて、
　 笑いあって。
　 …恋人同士みたいだった。」


真「今やから言うけど、恋人同士みたいに過ごし
　 たかってん。」


あ「ふふ、私も。それも同じ事思ってたんだ
　 ね。」


あの日の私達は、まだお互いの想いを知らなかったにしても、本当の恋人同士みたいだった。


手を離しても、どちらからともなく手を取り合って繋いで。


周りの恋人達と同じように過ごしたあの日は、大切な思い出。


あ「真司郎に渡した万年筆あるでしょ？
　 あれね、ほんとはあの日渡そうと思って
　 鞄に入れてたんだけど、渡せなくてね。」


真「なんで？」


あ「それ渡したら、泣いちゃいそうだったか
　 ら。」


あの時、ずっと鞄に入れていた万年筆を、最後までどうしても渡すことができなかった。


渡してしまったら、涙が零れそうで。


明日からもう真司郎は隣にいないんだとわかっていても、どこかで信じられない気持ちがどこかにあった。


でもそれは変えられない事実で、きっと渡したら、寂しくて我慢できずに泣いてしまっていただろう。


それに、


あ「あの日、ずっと笑顔で過ごそうって決めてた
　 の。
　 笑顔の私だけを覚えていてほしかったか
　 ら…。」


真「A…泣いてもよかったのに。」


あ「そしたら真司郎の事、困らせるでしょ？
　 それだけはしたくなかったの。」


真「困らせてくれてもええのに。」


あ「それは今だから言えることだよ、きっと。」


私達はよくこうして、想いが繋がる前のこととかを話したりする。


それも私達には大切なこと。


真「俺もな、あの時けっこう気持ち的にぎりぎり
　 やってん。」


あ「ぎりぎり、って？」


真「思わず、好きやって言いそうになった。」


耳元で聞こえる切な気な声と、擦り寄せられる頬。


真「あの日、Aの事独り占めして、
　 好きで好きで堪らんくなって。
　 好きな気持ち抑えるのが苦しかってん。
　 自分でLA行くの決めたくせにな。」


包み込まれている腕に、きゅ、と力が込められる。


真「少しでも長く一緒におりたくて、海にきて
　 ん。
　 その時に…な。
　 言いそうになったけど、言えれんかった。」


あ「それって、もしかしたら袖捲ってくれた
　 時？」


あの時、【A、俺…】と言っていたのを思い出す。

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