六月十九日_七時半_ ページ2
味噌汁の香りで、目が覚めた。
トントンとリズムよく刻まれる包丁の音。
昔は女性らしい行動を見せることのなかった彼女だったが、籍を入れてからは台所に立つ姿をよく見るようになった。
…六月十九日。
今日という日の日付だ。
誕生花は薔薇。
誕生石はサファイアとクリスタルだったか。
朗読の日。
ロマンスの日。
…私、太宰治が生まれた日。
二十二回目の、誕生日。
ゆっくりと目を開けると、もう見慣れた探偵社寮の天井が目に入った。
窓から差し込む光は明るい。
梅雨真っ只中の今の季節には珍しく、今日は晴れているようだった。
隣に並べられていたはずの布団は、既に三つ折りにされている。
視界の端に見えた時計の指す時刻に、少ないながらも危機感を覚える。
体を起こすと、朝特有の倦怠感が全身を襲った。
二度寝という誘惑になんとか抗い、隣の布団と並べて三つ折りにする。
却説、今日も我妻が朝餉を作って待っていてくれている。
さらば蒲団、また夜に会おう。
居心地のいい蒲団に別れを告げ、いつもの服に着替える。
一連の起床すぐの流れが終わる頃には、時計の長針は既に六を指し、隣の部屋から炊きたての白米の香りが漂ってきていた。
__
「おはよう、二十二歳の太宰治さん?」
「おはよう、二十二歳の太宰蒼空さん。」
朝餉を装い終わったらしい蒼空…私の妻が、卓袱台にお茶碗を置いた。
「お誕生日おめでとう、治。」
「うん、ありがとう蒼空。」
にっこりと微笑む彼女の顔を目に焼き付ける。
自然と浮かんだ笑みのまま、顔を洗う為に奥の部屋へと進んだ。
…私の生きる、意味。
ずっと見つからなくて、必要だとも思わない侭、初めから私に足りなかった其れ。
其れは、今の私にとっては太宰蒼空その人なのだ。
今も、そしてこれからもきっと。
バシャッと音を立てて冷水が顔を濡らす。
段々と確りしてくる思考回路を感じながら、私は顔を濡らす水を拭き取った。
__
「「頂きます。」」
ご飯を食べる時の挨拶を揃って言った後、味噌汁を一口啜った。
口の中に味噌の風味が広がる。
沈んでいた人参と豆腐がちらりと見えた。
「うん、美味しいよ。ありがとう。」
そう云って微笑めば、
「そう?良かった!」
そう云って蒼空はまた、あの太陽のような笑みを此方に向けてくる。
『幸せだ』
そう思わせてくれる笑みを私に向けてくる。
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千風(プロフ) - そら豆さん» そ……の………う………………ち………………………………… (2019年1月20日 13時) (レス) id: d4838ee308 (このIDを非表示/違反報告)
そら豆(プロフ) - 千風さん» 読み直すなんてことを滅多にしないから誤字も違和感も気付かないのよね。ありがとう。そのうち直しとく。 (2019年1月20日 9時) (レス) id: a1dcc5c8f0 (このIDを非表示/違反報告)
千風(プロフ) - ところで前から不思議だったんだけど、国木田君の「言い訳あるか阿呆が!」は「良いわけあるか阿呆が!」なんだよね……? (2019年1月18日 21時) (レス) id: d4838ee308 (このIDを非表示/違反報告)
千風(プロフ) - しいぽんさん» お前は……何故我の作品に現れん……さてはアンチかこの野郎!(自己主張もいいとこ) (2019年1月18日 21時) (レス) id: d4838ee308 (このIDを非表示/違反報告)
千風(プロフ) - そら豆さん» 国木田さーん助けてくださーい、厨二病患者が厨二病患者を厨二病患者って言ってまーす (2019年1月18日 21時) (レス) id: d4838ee308 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:空豆火月(そら豆) | 作成日時:2018年5月28日 19時