【文スト】人工信者【中原中也】

参ノ参 ページ9

「貴女の御名前はなんと仰いますか？」




「…嗚呼、忘れたわ。」



「え？」



「忘れたのよ。貴方達に捕まるほんの数日前にね。」





重い内容の筈なのに、彼女は昨日殺した蚊の数と同じ位に軽く云った。



なんでもない事の様に。



当たり前の事の様に。



…寧ろ其の事すら覚えていなかったかの様に。





「何故…？」



「其れが彼の女の異能力を使った対価だからよ。」



「対価？」



「そう。異能力を使用された者が背負う、対価。


彼女の所持するのは、『対象者の体の先導権を人間から異能力に移し、異能力を強化する』異能力。


そして強化の対価として、体の先導権の無くなった人間の人格は消滅していくのよ。


無へと還る。


段階を踏んで、段々と無いものになっていく。」





そこ迄云うと、彼女自虐的に笑った。




「あの女は此処まで説明せずに私に異能力を使った。『異能力を強化してポートマフィアの情報を入手する』それだけを提示してきた。」




「ポートマフィアの情報だと？！」





中也さんが慌てた様に叫ぶ。



見ると縢も目を見開いている。



＿＿成程、今回の任務は五大幹部である中也さんが動く様な大きなものなのだ。


ならば下っ端に関わらせてはいけないだろう。今回の被害者であり加害者に成りうる下っ端には。


だから彼女からの情報は零に近いのか。




其れを知ってか知らずか、彼女はニッコリと明るい笑顔で云った。




「そうよ？云ってなかったわね。


私の異能力は、「半径5粁離れたコンピューターから情報を抜き取る」異能力。其れを強化した事によって、異能が関与できる面積が広くなったのよ。


だから、異能特務科からポートマフィアの情報を抜き取った。」




私の異能力にセキュリティなんて意味が無いからね…



そう云って、彼女は明るい笑みに影を含めた。




「どの情報かは云わないわ。だからポートマフィアは機密情報を知っているかも知れない私を殺さないといけない。」




「…」





空気が重くなった。ピリッと張り詰めた感覚がした。

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