97 ページ7
バスで駅まで行ってそこから片道の切符を買って何時間も揺られながら狭いバスで帰った。
降り立った瞬間、懐かしいこの場所の匂いがわたしの鼻腔を通った。
わたしのいた場所。
わたしの全てだった場所。
古びた無人駅も、草が生い茂っている道も、ろくに陽を避ける場所がない一本道も、古い民家も、廃れたコンビニも、たった数週間のことがひどく昔のように思える。
あの場で起こったことを考えながら歩いていたら自然と足はかつての家にたどりついてしまった。
売ってしまったから中に入ることなんてできないのに。
ここでかつて3人で楽しく慎ましく過ごした日々。
事故にあったときの怖さ。
ある日突然父が姿を消した日のパニックと現れた深い哀しみ。
大好きな母がわたしの前から儚く消えてしまった日。
千紘と慎太郎がずっとそばにいてくれた日々。
おばあちゃんが弱々しくなって作り笑いを、わたしに向けた日。
そのおばあちゃんが苦しむことなく天国へ行ってしまった日。
わたしには平凡な幸せなんて来ないのかもしれない。
きっと一生抗うことなんてできない。
それでも…
それでも大きな代償を払ってでもいいから彼の…樹さんのそばにいたいと思った。
僅かな時間でも幸せだったじゃない。
その思い出だけを胸に抱いたまま生きていける。
きっともう会わないままの方がいい。
帰ってきたものの行く場所なんてなくて。
ひとまず駅前の小さな潰れかけのモーテルが2980円だったのを思い出してそちらに向かう。
ガンガン陽が降り注ぐ一本道を歩いていると後ろから、
「A!」とわたしの名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「うそ…千紘、慎太郎」
「お前帰ってきてたんだったら言えよ!」
「なんで何も言わないのよ!」
1542人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「SixTones」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
くらら(プロフ) - 椿さん» 読んでくださりありがとうございます。そして申し訳ありません。大事な部分なのに非公開になっていて今ちょっとびっくりしました。多分物語の展開が読みにくかったんじゃないかと。大変申し訳ありませんでした。私もこの二人がいつまでも幸せでいることを望んでます^ ^ (2021年10月3日 20時) (レス) @page26 id: f815a3c4d3 (このIDを非表示/違反報告)
椿(プロフ) - 完結おめでとうございます。1本の映画を見たような、情景が浮かんできて、お話の世界ではあるけれど、二人が幸せであるようにと願うばかりです。91話が消えてしまっているようで、また読めたら嬉しいなと思っています。 (2021年10月3日 19時) (レス) id: 016a2653a3 (このIDを非表示/違反報告)
くらら(プロフ) - ひなたさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます。今週には完結します。どうぞエンドロールまでお楽しみいただけますよう、がんばりますね! (2021年9月28日 21時) (レス) @page16 id: f815a3c4d3 (このIDを非表示/違反報告)
ひなた(プロフ) - くららさんのお話大好きです!涙が止まりません! (2021年9月28日 20時) (レス) @page15 id: 62306c8a0e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Clara | 作者ホームページ:https://www.instagram.com/st.clara.6/?hl=ja
作成日時:2021年9月20日 20時