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11時間前 ページ39

転げ落ちた松島を嬲るように、総悟はじわじわ追い詰める。
「ひ、ひぃいいい!」
情けなく悲鳴を上げて、逃げ腰で、ひたすら動き回る。総悟は面倒臭そうにもせず、じっと彼を追いかけていた。まるで、弱るのを待つ猫のように。
「来ないでくれぇ!」
「友達なんかいたことがない」
一歩一歩近づいていく。松島はどんどん後ろに下がって、いよいよ後がない。あるのは、37階を真っ直ぐ墜落する未来だけ。
「頭も顔も愛想も良い」
「う、ううう」
「でもずっと一人」
「う」
「…だから、俺なんかと友達になれて喜んじまう、大馬鹿」
総悟は虚ろな目で、姉の顔を思い出していた。紫陽花や、朝顔のような、曖昧で綺麗に笑う女性。ミツハもAも、同じくらい幸せになってほしかった。
人並みの幸せとは、女の幸せとは、総悟には分からない。それは理想であり、男には一生分からない。しかし、少なくとも、自分の前では笑っていてほしい。あの、真夏のような輝かしい笑顔で。子供のような足取りで雪原を歩けばいい、初めて会った時、自分の目も心も奪っていったように。
「く、う、何が、何なんだ!結局どうしたいんだよ!」
松島は自分の胸元を掴んで引っ張る。上等な服に醜い皺が寄った。怒鳴る彼も、また顔立ちは美しい。しかし顔だけだ。
「お前には分からんだろうがなぁ!良家の生まれで、才覚はあるが女で、しかもそれが遺伝子異常者だ!そうなったら、なあ、家のためになるのは何だと思う!?それ以上に良いところに嫁ぐことだよ!!!」
「…」
「お前たちが来たのは、なんだ、宇宙船についてか!?それにしては君は彼女についてばかりで…ああ、なんだ、惚れたのか、君も。ははは!同じ穴のムッ」
「その鼻ぁ」
総悟の神速の刃が、松島の顔を下から煽るように通っていった。ぽとり、と地面に落ちたのは、彼の顔の中心で陣取っていた形の良い軟骨だ。
「ぁ」
「伸びすぎですぜ」
「あ、あああ、ああああああああああ」
どん。今度は顔を覆う松島の体が宙に浮いた。その前蹴りは恐らく大した力は込めていない。ふらつき重心を失った彼の体を、その細く丈夫な右足は、易々と屋上から一歩外へ押し出した。
「最後の最後に確認できてよかったぜ。あんたやっぱりあいつのこと何も分かっちゃいなかった」
落ちていくその美丈夫と目が合った。
それは明確な殺意であったと同時に、この上ない優越感と安堵であった。
数秒後、水風船がはじけるような音が聞こえ、総悟は確認することなくその場を後にした。

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ソーサラー(プロフ) - たたさん» ありがとうございます! (2021年11月11日 12時) (レス) id: 465e22fbd6 (このIDを非表示/違反報告)
たた(プロフ) - あとがきの言葉を含め、とっても素敵なお話しでした。😌 (2021年11月8日 13時) (レス) @page49 id: 3fb8fe7daf (このIDを非表示/違反報告)
ソーサラー(プロフ) - ☆さん» ありがとうございます。褒められて調子に乗らないように、頑張ります。 (2021年8月17日 0時) (レス) id: 1368eb388d (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 表現の仕方が丁寧で、神秘さと儚さ、知的さを持ち合わせていながらどこか子供のようにあどけない夢主ちゃんの魅力がたっぷりと伝わってきました。とても好きです…。無理なさらず頑張ってください!応援しております! (2021年8月16日 13時) (レス) id: 9c28cba465 (このIDを非表示/違反報告)
ソーサラー(プロフ) - ことにゃさん» ありがとうございます。頑張ります。 (2021年8月2日 22時) (レス) id: 1368eb388d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ソーサラー | 作成日時:2021年7月22日 23時

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