28日目 ページ28
病院の中をうろうろすると、人の目にはつくもののそれ以外に弊害はない。
宗教関係者なんかは天使様とあだ名をつけることもあった。しかしそういった人ほど早く健康に退院していくのだ。プラシーボ効果というやつだろう。縋る対象を持つ者は強いのだ。
「…新八さん、いつまで隠れている気だ？」
自販機の陰から地味な顔をした眼鏡の少年が顔を出す。彼は誤魔化すように笑った。
「はは…よく、気づきましたね」
「足音がバレバレだ。ここは健常者の方が少ないからね。何か用？」
「ああ、いえ。その」
新八は何か言い淀んで、目線を泳がせた。そして後頭部を掻いて、何か言いださねばと言葉を紡ぐ。
「Aさんについて、もっと知りたくて」
「いいよ。何が知りたい？」
「えーっと…ともかく、喫茶店かどこかへ行きませんか」
病院の喫茶店は意外と高い。新八が衝撃を受けたらしい顔をしていたので全額Aが負担した。締まらないと新八はどこか申し訳なさそうだったが、カモにされるのは慣れていた。
Aは自分の生い立ちや、育った環境、どんな能力を持っているかをつらつらと語り出した。決まって彼女は能力についてはナルシシズムをちらつかせていた。それから、結婚について。
「松島交易は宇宙貿易の他、武具の製造にも長けている。以前神楽さんが教えてくれた情報を元に自分でも調査をしてみたんだけど、風介に代替わりしてから業績は右肩上がりでね」
「ああ、すみません。少し古い情報だったようで」
「いや？表立っては、会社としては終わりなのさ。…松島はもう、裏社会に染まりきっている。そんな会社とうちの会社が政略的結婚なんて、理由は一つしかないも同然だ」
紅茶を置いて、Aは味を調えるために砂糖を三杯入れた。
優秀さを微塵も隠そうとしない彼女を新八はどうも不得手としていた。優秀な人間を前にすると卑屈になるあれによく似ている。
「…結婚って、新八さんは幸せなものだと思う？みんなに祝福されてさ」
「そりゃ、普通はそうでしょうけど」
「だよね。じゃあ、やっぱり笑っていなきゃなぁ。つまんないの」
紅茶を飲み干して、Aは窓に視線を移した。新八も釣られて見る。白い雪がやはり積もっていた。
「白は見飽きたんだ。鏡を見ても、病院の中も、白ばかりだもの」
「黒はどうですか。高貴な色ですし」
「私が白いのに、黒なんか身につけたらオデット・エ・オディールみたいになってしまうよ」
「…白鳥の湖！」
「正解」
笑う彼女は年相応だった。
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ソーサラー(プロフ) - たたさん» ありがとうございます！ (2021年11月11日 12時) (
レス) id: 465e22fbd6 (このIDを非表示/違反報告)
たた(プロフ) - あとがきの言葉を含め、とっても素敵なお話しでした。😌 (2021年11月8日 13時) (レス) @page49 id: 3fb8fe7daf (このIDを非表示/違反報告)
ソーサラー(プロフ) - ☆さん» ありがとうございます。褒められて調子に乗らないように、頑張ります。 (2021年8月17日 0時) (レス) id: 1368eb388d (このIDを非表示/違反報告)
☆(プロフ) - 表現の仕方が丁寧で、神秘さと儚さ、知的さを持ち合わせていながらどこか子供のようにあどけない夢主ちゃんの魅力がたっぷりと伝わってきました。とても好きです…。無理なさらず頑張ってください！応援しております！ (2021年8月16日 13時) (レス) id: 9c28cba465 (このIDを非表示/違反報告)
ソーサラー(プロフ) - ことにゃさん» ありがとうございます。頑張ります。 (2021年8月2日 22時) (レス) id: 1368eb388d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ソーサラー | 作成日時：2021年7月22日 23時
