検索窓
今日:4 hit、昨日:0 hit、合計:7,800 hit

22 ページ26

思えば長い3週間だった。
誘拐されて、DIOと出会って、殺されかけて、メイドとしての矜持と忠誠を誓った過去にしがみついて、足を失って、彼を愛して、紅茶を飲んで、一緒に眠って。
可哀想なDIO。お前は子供のまま大きくなってしまったんだね。
「う、うう、うううううう、うわああああ、あああああ!!!」
ジョセフは死んだ。死んだ死んだ死んだ。いなくなった。助けられたかもしれないのに。DIOのもとに居れば、盾くらいにはなれたのに。
愛した主人はもういない。義手で撫でてくれることも、分厚い皮の掌で抱きかかえてくれることも、明け渡した魂を見てもらうことも、もう、ないのだ。
泣き叫ぶAは年相応だった。承太郎は彼女をそっと抱きしめて、肩に彼女の顔を押し付けた。
本当は来てくれないんじゃないかと思っていた。こんな汚い小娘に金と時間を割くほど、暇ではないだろうし。
本当は愛されていないんじゃないかと思っていた。こんな孤児に愛をわけるなんてできるわけないだろうし。
本当は、怖くて怖くて、泣いて喚いて逃げ出したかった。
博愛主義者だからスラムを治めていたのではない。誰も信じられないから自分だけの国を作り上げたのだ。彼女はほんの少し過激な思考を持っているだろうけど、ただの12歳の女の子なのだ。守られるべき立場である、少女。
自分よりはるかに大きな男を愛でてやるほどできた人間ではない。ストックホルム症候群なんかで誤魔化せるほど、彼女はロマンチストではない。ずっとずっと厳しかった現実を知っているからこそ、彼女の頭は生に固執した。
小さな肩はがちがちに凝っていた。ずっと力を入れていた証拠だ。
承太郎はただただ泣く彼女を抱き上げた。
土煙と海の匂い。ロードローラーから漏れるガソリンと、火花散って焦げた鉄の香り。
「怖かったな」
「うううううう、うえええ、えええええ」
「もう大丈夫だ、大丈夫」
承太郎の優しい声と無責任な言葉に殴り掛かりたくなった。
死んだ人間は生き返らない。
死んだ人間はもう腐るだけ。鼠と蟲に食い破られて、あのお方はもう。
転がったシルクハットと落ちた紳士用のコートはサウサンが拾っていた。彼女は真っ直ぐ承太郎を見つめた。大人を信じない子供の目だ。
「適当なこと言って誤魔化さないでよ、何が大丈夫なの」
「…」
黒い髪は重たそうだ。目尻には血の化粧の跡がある。
直感的に彼女もAに心酔した信者の一人なのだとわかった。ジョセフと同じ目つきは、孫だから見慣れたものだ。

23→←21



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (36 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
71人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

☆夢腐女子☆(プロフ) - 苗字の欲張りセットは笑いましたw面白かったです!他の作品も頑張ってください!(*^^*) (2021年5月30日 7時) (レス) id: a9ee6f3cf2 (このIDを非表示/違反報告)
3a - めっちゃ面白いです!!続きが気になります!頑張ってください! (2021年5月16日 3時) (レス) id: 59e168782f (このIDを非表示/違反報告)
ソーサラー(プロフ) - 靜藍さん» ありがとうございます!頑張って完結させますね!! (2021年1月2日 16時) (レス) id: 1368eb388d (このIDを非表示/違反報告)
靜藍(プロフ) - め、めちゃくちゃ面白いですッッッ!!!前作?のディオの妹の話もそうですが、私のドタイプのお話でした!!(*>∇<*)続きとても楽しみに待ってます!!! (2020年12月6日 19時) (レス) id: 114c5f5474 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ソーサラー | 作成日時:2020年10月22日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。