盗賊.56 ページ7
『クロロ?』
腕を掴まれ、そのまま壁に押し付けられる。
壁の冷たさを背中に感じつつ彼を見上げると、視界が黒で塗りつぶされたのだった。
『ん』
それが彼の瞳であると気付くまでそう時間は掛からなかった。抵抗しようと力を込めるも、それはクロロによって無力化させられてしまうのだった。
一尺ほど大きい彼の影に覆い隠されてしまう。
『苦し、』
息苦しさを感じ、顔を背ける。
「……………」
だが頬を掴まれ、再び口を塞がれてしまったのだった。
酸欠気味になり意図せず瞳が潤んでいく。
潤んだ瞳はまるで葉を伝う雫のようだった。
『っは』
乱れた呼吸を整えているAにクロロは目を細める。
「そんな顔もするのか」
余裕のない顔に口角が上がる。
どうやら加虐心を煽られたようだ。
「今離したらお前は俺を殺そうとするだろ?」
顔に手を当て、視線を交じり合わせる。
「!」
するとAはニヒルに笑ったのだった。
『流石クロロ、よくわかってるね』
好戦的な笑みに一瞬呆気を取られるも、クロロはすぐにそれが虚勢であることに気付いたのだった。微かに赤らめられたAの頬に、彼の理性はドロドロに溶けていく。
「いつまで虚勢を張れるか見ものだな」
視界が反転し、彼の瞳に捉えられたのだった。
・
『なに』
ジトーッと見つめる。
「どうかしたか?」
『…………いじわる』
ぷいっと拗ねたように反対方向を向くAをクロロは背後から抱きしめ、意地悪に笑う。声や表情だけでなく、肌で感じる体温まで愛おしく思えた。
「冗談だ」
それは雨のように冷たく心地良かった。
『うー苦しいから離して』
「それで俺が離すと思うのか?」
『わあっ』
起き上がろうとするAを腕の力だけで押し倒す。
不機嫌そうに腕を掴んでくるAをクロロは頬杖をつきながら愉快そうに眺める。
『なんかご機嫌だね?』
団員が死ぬことはなかった。
予言を受ける事で最悪の事態を免れることは出来る、だが誰一人と死なずにすむ未来はただの幻想に過ぎないことは理解していた。
「ああ、お陰様でな」
でも、それはこの女がいなかったらの話だ。
「A」
向かい合う形で膝の上に乗せ、笑い合う。
この鎖は解けない。
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作者名:ゆき | 作成日時:2024年3月22日 12時