406 ページ6
「まー、首のテープ剥がしていくよー」
松本が剥離剤を手に取った。
「ん？」
松本は雅紀の左耳が赤くなっていることに気づいた。
「翔さん」
処置の準備をしていた櫻井を松本が呼んだ。
「これ…」
「ん？」
褥瘡らしきものが生じていた。
「え？何？」
2人のやり取りで不安を感じた智は櫻井に尋ねた。
「うんうん。なんでもない。ちょっとね、耳のとこが赤くなってるだけだから」
ここで褥瘡を指摘したら智が不安になり、その不安は確実に雅紀に伝わる。
せっかくの楽しいリラックスタイムが辛い時間になってしまう…
それを危惧した櫻井は今は智には言わないことにした。
そのおかげかドレッシング剤を剥がす間も雅紀は落ち着いていた。
「まーくん、上手にできてるよ。すごいね」
二宮の声掛けもまた的確で、松本は二宮にグッドサインをしてみせた。
腕の中の雅紀から、いい匂いがする。
シャンプーやボディソープの香りと、雅紀がつける香水の香りが相まって香るその香り。
雅紀が脳出血で入院中、無性にその香りが恋しくなって3つを混ぜてみたことがあったけれど、雅紀の香りはしなかった。
この香りには雅紀が香水を身に纏った時に放たれる香りが必要なのだと気づいた。
櫻井が荒れた肌に薬を塗ろうとしている。
ここに薬の匂いが混じってしまう…
「翔くん、ごめん。ちょっとだけ待って…」
櫻井は手を止めた。
智は雅紀に顔を近づけた。
雅紀が放つ香りは、元気だったあの頃と何も変わらなかった。
目を瞑れば、元気な雅紀に会える気がした。
会いたい…
雅紀に会いたい…
会って、鼻にかかったあの声でさとくんって呼んでもらいたい…
どうしようもない感情が湧き上がり、鼻の奥がツンとした。
その時だった。
洋服が引っ張られた。
雅紀だった。
何か違う空気を感じ取った雅紀が、智の服を掴んでいた。
合わない瞳、お腹の上に置かれた動かない右腕、歪んだ顔…
元気な姿とは程遠い雅紀の姿。
それでも雅紀は毎日懸命に頑張っている。
それなのに元気な雅紀に会いたいと思ってしまった自分に、智は失望した。
「ん？まーちゃん、ごめんね。なんでもないよ。翔くん、薬塗ってもらえる？」
今の状態の雅紀を受け入れたつもりだったのに、自分がまたこんな下らないことを思ってしまったことに落胆した。
落ち込む智に対して、雅紀は柔らかく笑っていた。
その笑顔がたまらなく切なくて、智は雅紀を抱く腕に力を込めた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 301人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
いずみ(プロフ) - りささん» コメントありがとうございます。リクエストもありがとうございます。お話の流れの中で取り入れていこうと思います。もうしばらくお待ちください！ (2021年2月6日 18時) (
レス) id: 3797474e34 (このIDを非表示/違反報告)
りさ - 初コメです！ニノが智くんにすごく甘えるシーンをもっと見てみたいです！まーくんが何かあった時は甘えないとか！突然のリクエストごめんなさい (2021年2月3日 3時) (レス) id: da570d1084 (このIDを非表示/違反報告)
いずみ(プロフ) - あのひさん» 新しい仲間がまた出てきちゃいました！今後、また横山さんも出てくるかもしれないです。またよろしくお願いします！ (2021年1月29日 7時) (レス) id: 3797474e34 (このIDを非表示/違反報告)
あのひ(プロフ) - まーくんのおかげで、また新しい仲間が増えましたね！横山くんも元気かな〜？ (2021年1月25日 22時) (レス) id: 2bf0d880c6 (このIDを非表示/違反報告)
いずみ(プロフ) - りんさん» 初コメありがとうございます！そんな風に言って頂けてとても嬉しいです。先程更新させて頂きましたので、そちらもよろしくお願い致します。 (2021年1月21日 23時) (レス) id: 3797474e34 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：いずみ | 作成日時：2020年11月28日 0時
