264 ページ14
「それじゃあ、鎮静かけようか。大野さん、まーくん抱っこする？」
智は頷き、ベッドに腰掛け、櫻井と松本が雅紀を抱き上げ、智の腕に寝かせた。
智は優しく優しく雅紀を抱きしめた。
「まーちゃん、大丈夫だからね」
櫻井が右手を、松本が左手を握った。
「雅紀、よく頑張った。必ず帰ってこい！」
「かっこいいよ、まー。ずっと待ってるからね…」
松本は涙を堪えきれなかった。
「まーちゃん！！頑張ってね！！」
智は笑顔で雅紀に語りかけた。
気管孔からの出血は続いていた。
「おやすみ、まーちゃん」
タオルでその血を拭いながら智は雅紀の耳元で囁いた。
二宮がカテーテルから鎮静剤を注入すると、ゆっくりと目蓋が下がり、雅紀は意識を飛ばした。
ベッドにゆっくりと雅紀を寝かせた。
「まーくん、手術室までみんなで行こうね」
雅紀の手を繋いで、手術室に向かった。
「ねえ、翔くん。雅紀、笑ってる」
正直なところ、櫻井には、雅紀が笑っているように見えなかった。
でも、智にそう見えるのならきっと雅紀は負けない！って強く思いながら、落ち着いて手術に挑もうとしているのだろうと櫻井は思った。
「ホントだね」
櫻井はそう智に返した。
「大野さんたちはここまでね」
二宮にそう言われると、智は繋いでいた雅紀の手を解き、そっとベッドの上に置いた。
「いってらっしゃい」
頬に手をあて、頭を撫でて、雅紀から離れた。
智の体が小刻みに震えていた。
櫻井とは松本が両サイドから、智を支え、雅紀を見送った。
「行ってくるね」
二宮は3人に小さく笑って言うと、雅紀のベッドに両手をかけ、手術室へと向かった。
静かに手術室へと繋がる扉が閉まった。
「ま……ちゃん…」
扉の閉まる無機質な音は、智の胸に微かな期待と大きな不安を抱かせた。
骨張った手の感触、残された血のついたタオル…
もしかしたら、もう…会えないかもしれない…
そんな思いばかりが頭をかすめ、智はその場に崩れ落ちた。
気付いたら、雅紀の病室に戻ってきていた。
櫻井も松本も、何も言わず、ずっと智に寄り添っていた。
智がポツリポツリと話し出した。
「雅紀が病気になって、俺は一生分泣いたよ。病気を宣告された日から、俺、毎日泣いてた。雅紀が寝て、1人になると不安でどうしようもなくて、何度も様子見に行ったり…。それでカメラも買ったんだ…」
「そうだったんだ…」
「ずっと見ていないと…ふとした瞬間に…雅紀が消えてしまいそうな気がした…」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 301人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
いずみ(プロフ) - ひろさん» いつもお読み頂きありがとうございます！これからもよろしくお願いします！ (2020年9月10日 23時) (
レス) id: 3797474e34 (このIDを非表示/違反報告)
ひろ(プロフ) - 毎日 更新楽しみにしてます。まぁくん元気になって良かった。続きが楽しみです。 (2020年9月10日 6時) (レス) id: c60b3962ed (このIDを非表示/違反報告)
いずみ(プロフ) - ひろさん» はじめまして！嬉しいコメントありがとうございます！これからもどうぞよろしくお願いいたします。 (2020年9月5日 23時) (レス) id: 3797474e34 (このIDを非表示/違反報告)
ひろ(プロフ) - 初めまして。この作品大好きです。更新されるのを 楽しみに待ってました。素敵な作品ありがとうございます。これからも 読ませていただきます。 (2020年9月5日 19時) (レス) id: c60b3962ed (このIDを非表示/違反報告)
Lima(プロフ) - いずみさん» え！本当に嬉しいです(;_;)どう言葉表現したらいいか...ぜひこれからも楽しんで頂けたら幸いです！！ (2020年9月5日 12時) (レス) id: 8c2f3cec2f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：いずみ | 作成日時：2020年6月19日 0時
