140 ページ40
翌朝。
櫻井が雅紀の胸の音を聞くとブツブツと粗い大きな音が聞こえた。肺水腫を起こしかけていた。
「潤、吸引して」
人工呼吸器の管からカテーテルを入れて吸引する。
吸引後に櫻井は再度、胸の音を聞いた。
「改善されない。伏臥位にしよう」
櫻井は不安そうな顔の智に病状を告げた。
「吸引しやすくなるからうつ伏せ寝にするね。智くんが持ってきてくれたクッション貸してくれる？」
櫻井と松本は2人がかりで雅紀を半うつ伏せ寝にし、折れた肋骨の下や、右足の下にクッションを挟んだ。
「まー、今向いてる方向に大野さんいるからなー」
頭の位置も調節し、人工呼吸器の管の位置も整えた。
「腕は下じゃないとダメ？上にあげてもいいの？」
「うん、いいよ」
「まーちゃん、これいつものお守りだよ」
智は雅紀がお気に入りのタオルの中に、四つ葉の押し花を挟んで、左手の下に敷いた。
うつ伏せ寝にすると、すぐに排痰を促すアラームが鳴り出した。
「ちょっと苦しいぞー」
櫻井は、使える最大の太さのカテーテルを人工呼吸器の管から入れ、最大気圧で痰を吸引した。
「ングッ……ングッ……グッ……」
15秒ほどの吸引を時間をおいて繰り返す。
ギュルギュルギュルと痰などの分泌物が吸い込まれる音がする。
「ングッグッ…ングッ……ングッ……」
意識がないのに雅紀の足が動く。
松本は排痰が促されるように、背中をマッサージした。
「苦しいなー、まー。でも取ったら楽になるからなー」
目尻からは生理的な涙が流れ続けた。
「雅紀、もう少し頑張ろう。ごめんな、苦しいな」
「ングフッ……ググッ…ングッ……」
顔の近くにいられない智は、動く足をさすった。
「潤、酸素量上げて。うん、少し良くなったね」
櫻井が聴診器をあて、吸引カテーテルを抜き、智を呼んだ。
溢れた涙で雅紀はパジャマの襟まで濡れていた。
「まーちゃん、楽になった？」
智は涙を拭いた。
パジャマの隙間から見えた、管と胸骨圧迫による肋骨骨折が原因で起きた広範囲の内出血。
目を背けたくなるような姿だった。
「まーちゃん、すごく頑張れてるよ。まーちゃんは、全然負けてないからね。大丈夫大丈夫」
智は雅紀の頭を何度も何度も撫でた。
「まーちゃん、俺、お弁当作ってくるね。待っててね、まーちゃん」
「まー、大野さんに、行ってらっしゃいって」
関節の運動も兼ねて、松本は雅紀の腕を伸ばして智の体に触れさせた。
智はその熱い手を握って、自宅に戻った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 209人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
いずみ(プロフ) - ちょんさん» コメントありがとうございます！あの5人を見ていると優しさに溢れていて、お話を書いてても優しい気持ちになるんですよね。これからもよろしくお願いします！ (2020年5月20日 1時) (
レス) id: 3797474e34 (このIDを非表示/違反報告)
いずみ(プロフ) - るんるんさん» コメントありがとうございます！今後もしばらく続きそうなので、これからもよろしくお願いします！ (2020年5月20日 1時) (レス) id: 3797474e34 (このIDを非表示/違反報告)
ちょん(プロフ) - いつも更新ありがとうございます！毎日お疲れ様です！4人それぞれの優しさを感じられるこの作品が大好きです。今後、ニノがどのように交わっていくのかも楽しみにしています！ (2020年5月19日 1時) (レス) id: 0eb4c418ab (このIDを非表示/違反報告)
るんるん(プロフ) - 鼻の奥がツンとして涙が出そうになりました…！全員の愛が溢れてる作品で、大好きです。今後の展開がすごく楽しみです！ (2020年5月19日 0時) (レス) id: 5f4c3622e1 (このIDを非表示/違反報告)
いずみ(プロフ) - あのひさん» いえいえ！お気になさらず！コメントありがとうございます。雅紀くん、頑張って3人とお弁当食べました。これからもよろしくお願いします！ (2020年5月18日 0時) (レス) id: 3797474e34 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：いずみ | 作成日時：2020年5月4日 1時
