たぶん世界で稀な恋【不死川実弥】

#13 ページ16

Aside



『不死川先生、お願いがあるんですけど』

実弥「…なんだこれェ」



玄弥に不満を溢された翌日

数学準備室で不死川先生にそう言いながら抹茶とおはぎを差し出すと、先生は怪訝な顔をした



『お仕事の邪魔は極力しないので
玄弥とここで勉強会をさせてください』

実弥「あ？」

『玄弥と先生の手伝いを両立させる唯一の方法です』



不死川先生が嫌そうに眉をよせる

この２ヶ月でその顔にも慣れてしまった

というかその顔しか知らない。



実弥「機嫌取りのつもりかァ？
俺の好物なんてどこで知ったァ」

『炭治郎情報です』

実弥「あいつ…！」

『でもどっちにしろ私がゴミ捨てに行ってんだからばれてましたよ
私がいないときにこっそり食べてたんでしょうけど』



先生の険しい顔がさらに険しくなる



実弥「こんなもん渡されたってその願いは聞いてやんねぇぞォ」

『いや拒否権なんて無いですけど』

実弥「はぁ！？」



そう言って背中を向けると
後ろで先生が立ち上がってなにやら文句を言ってきた



『はやめに食べた方が美味しいですよ』

実弥「ぐ、」



だけどそう言うと素直に座り直すから
そういうところ玄弥と兄弟だなと思う



『ん、ここらへんの書類直しますか？』

実弥「あー…頼む」



ソファーの前の机に散在した書類

先生は基本的に書類は綺麗にまとめる人だけど、期末テスト前だからか片付けがおざなりになっていた

彼の束の間の休息中に
資料をまとめて棚に直していく


途中までは問題なかったが
最後に直そうとした書類の場所がよくわからなかった

抹茶を美味しそうに飲む先生に聞いてみる



『不死川先生、この書類ここでしたっけ』

不死川「おー…あ、ちょっと待て
それはもうひとつ上の段だァ」

『あ、ここか』



直そうと手を伸ばす、が



『(やば、地味に届かな___)』



ｶﾀﾝ、



『！』



爪先立ちでﾌﾟﾙﾌﾟﾙと震えていると

そんな音がして
ﾌﾜﾘ、と柔軟剤のいい匂いが鼻を擽った


書類をもつ右手には
私よりも断然大きくてゴツゴツした手が触れている


少女漫画でみたことがある
女子の憧れの構図



不死川「無理のねぇ範囲で、って言ったろ
届かねぇなら無理せず頼れェ

骨折してるったって片手はあいてんだから
これくらいわけねぇよ」

『あ…ども』



それは初めて見る顔だった

笑ってないのに、優しい顔


好物を食べたからだろうか




私はその後しばらく
その顔が妙に頭から離れなかった

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