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ⅩⅩⅩⅤ ページ36

日高｢Aちゃん明日休み？｣

｢うん、だから飲み放題｣

べーっと舌を出してビールを掲げてみせる

｢日高さんは？｣

日高｢俺もオフ｣

彼も同じように舌を出しビールを掲げた

何となく目に入った時計は24時を越えていた

そろそろ帰るのかな、そしたら寂しいかも
なんて思ってしまった

日高｢Aちゃん！提案があります！｣

選手宣誓のようにバッと手を挙げ
持っていたビールを飲み干した

｢なんでしょう？｣

日高｢飲み足りないし帰りたくないので泊めてください！｣

んふふっ、という効果音が似合うような笑顔に
酔っているのか、少し赤みが増した頬と耳

この提案を断れる人が世の中にどのくらいいるのか教えて欲しい

だって、私の持ち合わせている答えは

｢いいでしょう｣

yesだけだから

日高｢よっしゃ、飲もーぜ！｣

意気揚々と彼が手にした缶は最後の一つで
沈黙が流れる

この場合考えることはひとつだ

日高さんはそそくさと缶を冷蔵庫に仕舞い
キャップとマスクと財布を持って

私の手を取った

｢え、一緒に行くの？｣

靴を履く彼に文句を垂れれば

日高｢夜の散歩。行こ｣

有無を言わさずエレベーターホールまで連れ出された

｢行ってくれると思ったのに｣

日高｢こんな時間に俺一人で襲われたらどうすんの｣

｢誰が男を襲うのよ｣

若干のイラつきを彼の二の腕を叩くことで解消する
馬鹿にするように笑われたけど

エントランスに着き
片道3分の散歩が始まった

日高｢夜に歩くのも良いよね｣

｢そうだね｣

終わってしまう会話

初めて飲んだ帰り道みたいに
日高さんとの無言は苦じゃない

あっという間に着いてしまったコンビニ
暗闇に負けず光る看板に目が痛くなる

日高｢ビールでいい？｣

カゴを持ってくれている彼に頷くと
普段気にとめない物が目に入る

商品棚の前で足を止め
たまにはいいかも、と手に取る

日高｢ワイン？いいね｣

何時間か前と同じく
横からひょいっ、と取ってカゴに入れた

｢それ癖？｣

確かに発したはずの疑問は
彼のアイス食べたい！の声に掻き消された

なんの迷いもなく高めのアイスをカゴに入れると
俺こっち、と同じメーカーの違う味を入れた

お会計をする背中を見つめながら
今更彼の策略にハマったことに気がついた

｢ずるい｣

日高｢財布持ってないなら無理だもんね｣

笑い飛ばす彼に
やっぱり申し訳なさが顔を出す