私たちはあなたを見ていた ページ5
図書室の、そのキャレルデスクから自転車競技部の練習風景が見えるのに気づいたのはそれからすぐだった。
そうして毎日、図書室から彼を見ていた。
久々に少し踊ったのを見られてしまったときは恥ずかしかったけれど、だいぶ前の話だし、それから彼とは顔も会わせていない。当たり前だ。クラスも知らない。真波くんはもうとうにその時のことなんて忘れてしまっているはずだ。私は基本的にポジティブなのだ。
今日の授業で習った部分を復習しようと教科書を取り出す。
でも、彼が自転車に乗っている姿だけが目に浮かんで邪魔をする。
会ったのはだいぶ前なのに、あまりに衝撃的だったのか未だにそんな時がある。
だってあんなに綺麗な男の子、他に知らない。
自転車に乗っているところが綺麗だなんて。
しばらくは彼を思い出してはぼんやりしてしまっていたくらいだった。
それは憧れのとある海外選手を生で観たときの心の動きに似ていて、私は迷ったけれど真波君をそれと同じカテゴリに入れた。だって、あれしか喋ってないのに一目惚れだなんて冗談じゃない!
そんなことを考えていたら派手にペンケースを落っことした。大きい音がたったのでいたたまれなくて、私は小さくなる。
女の子が中身を拾うのを手伝ってくれた。礼を言って一緒にペンを拾い集める。全部拾って立ち上がった拍子、その女の子はおもむろに
「この席、山岳が見えるのね」
と言った。一瞬普通に山のことかと思ったけれど、すぐにあれ?と思って訊いてみる。
「真波くんを知っているの?」
「私、幼馴染みよ。あなたこそ、山岳のことよく知ってるわね。まだ無名なのに」
「これから有名になるの?」
「……きっと」
その子は宮原さんという名前で、真波くんと同じクラスらしい。小さい頃からずっと一緒で、真波君に自転車を教えたのも彼女だそう。私も、道で助けて?もらったことと、登るところが新体操の海外選手を観た時みたいに綺麗だと思ったなあと話した。
宮原さんは自分が褒められたみたいに凄く嬉しそうにしていた。幼馴染みが褒められると嬉しいんだろうなと私も頬が緩むようだ。
箱学に入って4ヶ月が経とうとしているけれど、一人も友達ができていなかった私は少し自分のことを喋りすぎたかもしれない。真波くんがきっかけで友達ができたのが意外で、嬉しかった。
それなのに、私の胸はどこか、微かに痛んだ。何故だろうとは考えないようにした。
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イヴ - 大人っぽいね〜こういうちょっと背伸びした小説、好きだよ♪それで、ちょっとアブナイ感じのが最大の好み♪♪主さんは? (2015年10月12日 1時) (レス) id: 50d5e2963d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まゆ記 | 作成日時:2014年9月8日 3時