今夜あなたと図書室で ページ13
廊下は照明がついているのか、図書室の引き戸が開いて、光の筋ができる。
「遅かったね」
「だって総務省が……」
「なにそれ」
出会ってから、1年半か。短い間だったけれどそれなりに話して、彼の言動が唐突だったり脈絡がなかったりたまに思い詰めて凄いことをしたりすることがあるのは知りつつあった。
私のインターハイだって、わざわざ遠い開催地まで来たのに最後まで見ないで、気づけば山に行っていたときは笑うしかなかった。宮原さんに話したら、然もありなんという感想で、これがしょっちゅうかと思えば宮原さんの心中を察する。
「電気つけたら、寮監の先生に図書委員を買収したのバレちゃうから、このままで」
照明スイッチを探そうとした真波くんをそう言って遮る。
「最後は、ここで話そうかな〜って」
真波くんの表情はよく分からなかったけれど、多分不思議そうな顔をしているんだと思う。彼の手を引いて、あのキャレルデスクまで歩く。二人分の幅だけ、カーテンを開けた。
「初めて話してすぐに、ここから自転車競技部の練習が見えるのが分かったんだ」
「ほんとだ。あの街灯が続くあたり、よく走ってるよ」
目を細めて眺める。今でも、あそこに夕方翼を見たことを思い出せる。
「ずっとここで見てた頃が懐かしい」
「話しかけてよ!オレ、ずっと総合コースの校舎探してたのに」
探してた、とは初耳だ。
「探してくれてたんだ。いきなり教室につめかけて踊れって言われたときは本当に死ぬかと思ったけど、今となっては嬉しいかも」
そう意地悪げに言うと、真波くんは少ししょんぼりしてしまったようだ。
「……ごめんね」
「ううん。ありがとう。真波くんを見てたから、私は自分の生きるべき場所に戻れるんだと思う」
真波くんが急に私の肩に頭を埋める。
「う〜〜、Aがオレ、置いてきぼりにしてっちゃうなんて知ってたら、踊ってなんてきっと言わなかった」
「真波くんがそれを言うんだ?」
こんなことを言った裏側には、少なからず宮原さんのことが念頭にあった。宮原さんはきっと、真波くんが体調を崩したでもなければ自転車に乗るななんて言えないだろう。
真波くんは本当に素直で貪欲なんだと思った。それは時に罪だ。
これでお終いだ。互いに唯一の大事なものを持つ私たちは、もう一緒にいることはできなかった。
私は震える手を真波くんの両頬に添え、触れるだけのキスをした。
好きなんて、言う必要はなかった。
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イヴ - 大人っぽいね〜こういうちょっと背伸びした小説、好きだよ♪それで、ちょっとアブナイ感じのが最大の好み♪♪主さんは? (2015年10月12日 1時) (レス) id: 50d5e2963d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まゆ記 | 作成日時:2014年9月8日 3時