【短編集】Forme d'amour【QK】

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『拓朗』





「なんや」





『20時のお知らせ、先に教えてあげる』





俺の隣に座ったAが悪戯っぽく笑う。





「頼んでないんやけど………」





『拓朗にはね、先に知っといて欲しいの』









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＿＿＿＿＿私ね、引退するんだ。









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時が止まった気がした。





理解できなかった。





引退？引退。引退って、引くに退くって書く引退。





なんで。





『日本武道館決まったでしょ。実質あれが引退ライブなの』





夢の日本武道館の最初のライブが最後のライブかぁ、と呟いた。





「………なんで、」





『私ね、夢があるの』





また、夢。





「………どんな？」





『普通の女の子になりたい』





きっとそれはAの心からの願いだった。





小さい頃から子役として活躍して、大きくなったらアイドルデビュー。





俺みたいに普通の子供らしく過ごせた時期なんてない筈だ。





学校はあまり行けなくて、クラスでも浮きまくり。





『普通の女の子になって、普通に恋して、普通に生きていきたいんだ』





ファンを裏切るみたいになるけど、許して欲しい。





そう言ったAの寂しそうな笑顔が頭から離れない。





『ごめんね』





どうして、お前が謝るん。



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