浅沼家の日常12

後輩Uの悩乱 ページ11

『…。』

まずい。怒らせてしまったかもしれない。
え、俺何かやらかした？？
この人が怒るところって演技以外で見たことないな。
声優人生、いや俺の人生最大の危機だろ…！これは…！！

グルグルと、頭の中が嫌な考えでいっぱいになる。

目の前には、尊敬してやまない先輩兼推し。玉城Aさん。
俺が声優を目指すきっかけとなった一人でもある。

そんなAさんは、とにかく“凄い”人。
演技はさることながら、歌も上手いし頭も良い。さらに運動神経も抜群で、苦手なことなんてないんじゃないか？なんて度々思ったりする。
でも、その裏では人一倍、いや、数十倍も数百倍も努力しているってことを、事務所の後輩になってから初めて知った。

それだけ見えない部分では悩んだり、辛い思いをしていたりするのだろうか。

収録中どんなに感情を露わにしても、それ以外では笑顔で優しく接してくれるAさん。
不機嫌な様子なんて演技以外で見たことが無い。

だから、今俺の目の前にいる無表情で、遠くを見つめて黙ったままのAさんは何かに対して怒っている…。
そう判断せざるを得なかった。

・

ｽﾀｯﾌ「お疲れさまでしたー！前半の収録はここまでにして、1時間後に再開します！」

不機嫌(？)だろうが楽しい場面の演技はしっかりこなしたAさん。
それに引っ張られて俺も良い演技ができたように思う。流石推しだ。
でもやっぱり不機嫌そうに見えて気になってしまう。

いつも相談に乗ってもらってばかりだから今度は俺が相談に乗るべき？
いやいや、普通に考えてAさんの悩み事を俺が解決できるわけないだろう。
でも不機嫌なまま収録するのは本人にとってとても辛いはず…。

タイムリミットは1時間。よし、ここは玉砕覚悟で行くしかない。
男を見せろ！！！！

覚悟を決めて、収録ブースを出て行ったAさんを追いかけようとした。
その時、

島田「お疲れーっす。お、内田雄馬じゃん。」

内田「島田さん！」

島田「…出陣前の武士みたいな顔してどうした？」

内田「じま゛だざん゛！！！！！！！」

島田「マジでどうした？？」

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