90、掟 ページ43
｢世子嬪様…｣
｢…見張り、お疲れさまです｣
｢何故、このようなところに？
世子嬪様は、世子様の元にいるんじゃ…｣
んー…
今、邪魔されるのは困るんだよなぁ…
あと少ししか時間も無いし。
そうなると、実力行使…
私は瞬間移動かと思わせるほどの速さで近づき、
｢せ、世子嬪様！？｣
｢私がここにいることを
あなたに知られるのは不都合なんです。
なので…｣
私は声に出さず
眠れ
と、呟いた。
｢世子嬪、さ…ま……｣
さっきまで普通に立っていた彼は
その場で、すぐに眠りについてしまった。
｢ごめんなさいね、関汰さん。
あなたの命は奪いたくないのです｣
今夜は満月。
いや、今夜も満月。
私が眠りについた七日前から
突然、満月の日が続いた。
誰も気づいていないでしょうけど。
これの意味は
｢織様｣
｢…思ったより、早いのね｣
神からのお告げ。
｢急いで、お連れするよう仰せつかっております｣
｢そう…
でも、もう少しだけ待って？
あと少しで、すべて終わらせるから｣
｢承知致しました｣
神の使者。
そう呼ばれる人たちは顔を見せず、
突然現れて、突然消える。
それだけで人間でないことが、すぐにわかる。
私は急いで、世子様の元へ戻った。
道中、すれ違う人たちは全員、眠っていた。
これほど雑なことをするなんて
さすが、私と姉さんの生みの親だと思う。
全員を眠らせるから
その間に不都合な記憶を書き換えろ、なんて…
神だから、できることではあるけれど
とても残酷な気がする。
でも、神の掟には背けない…
下界にいるとき、
そこへ降りる前の記憶を知ってしまったら
元の場所へ、帰らなければならない。
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