85、応急処置(真咲視点) ページ38
｢いやああああああああぁぁぁ！！！！！｣
叫び声とともに強い風が吹いた。
すると眠っていた兵士や女官たちが
一斉に目を覚ました。
まるで強い風が呪いを祓ったようだった。
｢世子様！世子嬪様！｣
｢凛空！他の兵士たち、
あと医務官を呼んできて！｣
｢わかった！｣
関汰が的確に周りに指示を出していく。
｢世子嬪様？｣
アランが織に声をかけるも無反応。
かと思えば、織は立ち上がり
近くにあった弓矢を何本も放った。
矢を放ってすぐ、ガタガタと音が聞こえたから
全ての矢が誰かに当たっているのだと
誰もがわかった。
｢アランさん、私が矢を放った方向に
襲撃者たちがいます。
全員で五人ぐらいかと思うので
兵士を連れて、捕らえてきてください｣
｢はい｣
アランは、すぐに織の言葉に従った。
｢世子様、少し我慢してくださいませ｣
織は、そう言うと
刺さっていた矢を引き抜いた。
｢いっ…｣
｢後で毒の鑑定をするかもしれないので
矢は処分しないでください｣
｢はい｣
｢あと、お説教も後にしてくださいね｣
織は、矢で開いたところから
袖を裂いた。
そこまで痛々しい見た目の傷ではないけれど
色が悪すぎる。
それだけ強い毒が…
｢世子様、失礼いたします｣
｢織…！｣
｢世子嬪様！｣
織は俺の傷口から血を吸って
吐き捨てた。
｢応急処置にはなるので
痛くても我慢してくださいね｣
織は、何度も何度も
俺の血を吸って、吐いてを繰り返した。
下手をしたら、織まで
毒に当たるかもしれないのに…
｢関汰さん、世子様を頼みます｣
｢え、世子嬪様！？｣
織は、俺の腕を裂いた袖でキツく縛ると
すぐ、女官や兵士たちに声をかけて回った。
さっきの慌て方や、叫び声とは想像もできないほど
織の行動は冷静で、的確だった。
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