76、月(真咲視点) ページ29
酷い光景だった。
目の前で人が燃えている。
叫び声が国中に響き渡る。
なのに、誰も外に出てこない。
それどころか、青く燃える体で
何を触っても青い炎は何にも燃え移ることがない。
人間を除いて…
｢これは一体…｣
｢神の子を…いえ、神を怒らせるから
このようなことになるのですよ｣
燃えているのは何故か国民だけで
女人村の人たちは、誰も燃えていなかった。
｢そろそろ仕上げるとしましょう｣
織は右手を挙げると
勢いよく、下に振り下ろした。
すると青い炎は、一気に燃え上がる。
その熱さに耐えられず
次々と国民が倒れていく。
とうとう、誰一人、立っていられなくなり
青い炎で燃える国民が何人、何十人と、
ピクリとも動かなくなった。
｢ふぅ…｣
織は少しだけ息を吐くと
今度は右手を左から右へ払った。
すると、あれほど燃えていた青い炎は
一瞬で消えた。
今まで青く、明るかったのが真っ暗になる。
でも、すぐに辺りが明るくなった。
さっきよりも明るく満月が地上を照らしたからだ。
それでようやく、今、
この辺りがどうなっているのか見ることができた。
目を背けたくなるほどの光景ではなかったけど
さっきまで立っていた国民たちが
全員、衣服が綺麗なまま、横たわっていた。
｢死ん、だ、のですか…？｣
｢いえ。ただ間違った記憶を浄化しただけです｣
織の言う、間違った記憶は
きっと、今に関わること全てを指している。
でも、それを浄化って…
｢次は、あなた方の番ですよ｣
織がそう言うと
ものすごい数の馬の足音が聞こえた。
だんだんと、ここへ近づいてくる。
｢あなた方の記憶は浄化しません。
自分たちの犯した罪は神ではなく、
国王に裁いてもらいましょう｣
あっという間に周りを包囲した兵士たち。
そして
｢遅くなって、ごめんな｣
｢いえ、十分、早かったですよ。王様｣
健水くんの姿もあった。
｢ここにいる女人村の人間を全員、連行しろ！｣
『はい！！！！』
健水くんの一声で、兵士たちが
次々と女人村の人たちを取り押さえていった。
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