71、感情 ページ24
姉さんと一通り言い合いをして
目を覚ますと…
｢…！？｣
｢あ、起きた｣
｢お、起きたじゃないですよ！
何をしてるんですか！｣
｢ん？口づけ｣
自分でも顔が真っ赤になったのがわかった。
｢な、なんで、そんなことを｣
｢こうしたら目覚めるって
小さい頃に絵本を読まなかった？｣
｢よ、読みましたけど！｣
まさか、実際にするなんて思わないじゃん！！！
｢ありがとう、織｣
突然、涙声で抱き締められた。
なんなんだ？一体…
｢何のことですか？｣
｢母さんの最期を看取れたのも、
咲と会えたのも、織のおかげだ。
全部、全部、織がいてくれたからだ｣
｢でも、世の中は私がいたから
こうなったと言っている人もいますよ？｣
｢俺は、そうは思わない。
織がいてくれたから俺は救われた。
周りがなんと言おうと、これは事実だ｣
どうして私は姉さんに言われるまで
気づくことができなかったのだろう。
世子様の気持ちにも、自分の気持ちにも…
たくさんの感情を知ったのに
どうして自分には当てはめれなかったのだろう。
こういうところは、姉さんの方が上手なんだよなぁ。
こんな話をしたら世子様は信じてくれるかな？
でも、やっぱり、黙っておくべきかな。
混乱させてしまうだろうし、
他言しない方が良いだろう。
なんせ、神様の決めたことだもの。
分からない方が、知らない方が、頑張れるし
生まれる感情も繋がりもある。
そういうものを大事にしたい。
｢世子様｣
抱き締められているのを離れて
お互い見つめ合える距離をとった。
｢私が世子嬪になったのは
自分の意思ではありません。
留学していたのだって同じです。
どこにも自分の意思はありませんでした。
そうでしか生きられませんでした。
でも今は自分の意思で、ここにいます。
世子様の腕の中に入ったのは違いますが
ここから出ようとしないのは私の意思です｣
｢織…｣
｢私の一生を心から世子様に捧げます｣
ぎゅっと抱き締められたとき、
姉さんが微笑んでいる姿が見えたような気がした。
これで…
これで、良かったんだよね？姉さん。
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