69、関係(真咲視点) ページ22
日が沈む頃、
咲は元の場所へ帰って行った。
やっと、笑顔でお別れができた。
お互いに、何も偽らない笑顔で。
悔いは、無い。
ちゃんと伝えたいことは伝えあえた。
だから、もう、大丈夫。
もう、過去は振り返らない。
前を向いて歩く。
そして、守るべき人たちを守る。
それが咲との約束だから…
｢世子嬪？｣
外で待っているものだと思っていたら
世子嬪は、どこにもいない。
一人で帰るとは思えないし…
どこかの部屋で休んでるのか？
｢世子嬪、どこに…｣
いつから、そこにいたのか、
いつから眠っているのか…
世子嬪は咲の部屋で
部屋の隅にもたれたまま、眠っていた。
寝転がらず、座ったまま。
｢冷たい…｣
呼吸をしているから、生きていることがわかる。
死んだように眠るって今のための言葉なのか？
と思うほど、その言葉の通りだった。
そっと、世子嬪の頬に触れてみても
彼女は起きる気配がない。
そもそも、初めて彼女の寝顔を見た。
初夜の日も、俺の方が先に寝ていて
彼女の方が先に起きていた。
今は寝顔すらも愛おしく感じる。
いつからだろう？
咲ではなく、
織を見るようになったのは。
初めの頃は織の姿に
咲を重ねていたけれど
今は、ちゃんと織を見れている。
それは、やっと振り返ってばかりの俺から
卒業できたことになるんじゃないかな。
そうできたのは、やっぱり、
織のおかげだ。
自分のことを愛さなくて良い、
切り捨ててくれて良いと言われた夜。
そのときは、
そうならないように気をつけようと
思っていたけれど…
今は気をつけるようなことじゃない。
どんなことがあっても手を離したくない。
そのためには織に
俺のことを好きなってもらわないといけない。
建前だけの関係じゃなくて
心からの関係を築いていきたい。
どんなことがあっても壊れない関係を。
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