50、期待(真咲視点) ページ3
世子嬪が母上を宥めてくれて
母上は渋々、自分の部屋へ戻って行った。
服装のせいで見えない世子嬪の手。
最後に見たのは
本を読んでいるときの手。
白くて、綺麗な手だった。
｢世子様？｣
｢気をつけなよ。女の子なんだから｣
そう言って、初めて握った世子嬪の手。
思ったよりも小さくて、どこか弱さを感じた。
｢これでも落ち着いた方なんですよ？｣
｢もう少し落ち着けとは言わないけど
怪我はしないで欲しいな｣
母上の言うように、
俺はもっと世子嬪を見ないといけない。
もっと世子嬪のことを知らなければならない。
例え、それが思っていたことよりも
つらい現実だったとしても、受け止めないと…
｢今日の世子様、なんか変です｣
｢そう？｣
｢義母上様に怒られたのが
そんなに堪えましたか？｣
｢…そうかもしれない｣
そう言うと少し驚いた顔をしてから
優しく微笑んで
｢母親は、いつまでも子どもが可愛いものです。
幸せになって欲しいと思うものです。
世子様は、とても愛されています｣
｢知ったようなことを言うね｣
｢愛されることが、当たり前ではないことを
私は知ってしまったので｣
そのときの彼女の微笑みは
瞳の奥に寂しい色が見えた。
無理してまで大人にならなければならなかった
彼女の心の叫びが一瞬、見えたような気がした。
｢世子嬪…｣
｢はい、世子様｣
｢世子嬪は、幸せ？｣
｢え？｣
突然、質問するには
ぼんやりしすぎたものだと思う。
それでも、これを聞けば
彼女のことを知れるような気がして
彼女の心に近づけるような気がして…
｢…私の幸せは、私が大切だと思う方々が
心から笑っていることです｣
彼女らしい答えだと思った。
自分のことよりも周りのこと。
良くも、悪くも、期待を裏切らない答え。
｢私はまだ、心から幸せだとは言えないでしょう｣
｢どうして？｣
｢世子様が心から笑っていらっしゃらないからです｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 5人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
