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48、失くしていた音 ページ49
怖くなった。
柚希くんの気持ちに気づいた瞬間、
この場にいるのが怖くなった。
乗り越えていると思っていた
心の距離。
思い込んでいただけで、
前の学校のときから私は
何一つ、変わっていなかった。
前向きに考えれるようになったって、
それは元気なときだけで、
いつもじゃない。常にじゃない。
あの頃から、何も変われてない。
私は、まだ、弱いままだ。
どうして、人の心に近づけるの？
なんで、それが怖くないの？
いつ、どんなとき、壊れるかわからない、
正解がない他人の心に
どうして近づこうって思えるの？
なんで、そんな勇気があるの…？
｢大丈夫、大丈夫。
今は、まだ考えないで｣
補聴器を通して聞こえた彼の声。
その声にハッとして、現実に戻ってきたとき
彼の顔が、とても近くにあった。
身長的に、立ったままで
平行に目線が合うことなんてないのに
今、それができている。
不意打ちの優しさ。
不意打ちの距離。
予想外の出来事で
さっきまでの不安や恐怖なんてなくなって
この身体的距離に胸が高鳴っている。
｢よし。OK｣
さっきまで私の髪に触れていた彼の手。
まだ、その温度が残っている気がする。
｢ありがとう、葉崎くん｣
そう言うのが精一杯だった。
彼が優しく微笑んでくれたから
私も笑うことができた。
失くしていたはずの恋の音が、きこえる。
これは、このまま、譜面に記して良いのだろうか…
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