26、言葉 ページ27
「…先輩?」
と声をかけたら、
右耳にあった圧迫感が無くなった。
右耳を触ると、あるはずの補聴器が無かった。
慌てて振り返ると、先輩と目が合って
「補聴器、あったんだね」
と口で言った。
どうしたら良いのかわからなくてフリーズする私。
そんな私に
補聴器の電源を入れて右耳につけ直してくれた。
そして左耳についている補聴器の電源もONにした。
少しの沈黙の後、
「初めて俺の声、聴いた?
それとも何回目か?」
と、聞いてきた。
何か聞かれたくないことでも
音にしてしまったのだろうか?
バレてしまったから
これ以上、嘘はつきたくない。
「…私が本を読む前に始めて聴きました。
でも、先輩が寝転がったときに
補聴器の電源を切ったので
それ以降は無音の世界でした」
「そっか。やっぱり聴こえてたんだ」
補聴器を使わないと決めたとき、
こうなることは想定済みだった。
でも、いざ、その場になると
思っていた以上に、苦しくなった。
「聞こえないフリをするのはズルくない?」
「聞こえないからって決めつけて
勝手に暴露するのも、どうかと思います。
だから、お互い様じゃないですか?」
「確かに、そういう考えもあるね」
先輩は優しい人だ。
すごく言葉を選んでいる。
言いたいこと、聞きたいことがあるはずなのに
全部言ってしまうと私が傷つくかもしれないから
1つ、1つ、言いたいことを絞って、
その上、オブラートにまで包んでくれている。
私を守るのと同時に、自分自身を守るために。
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