聴きたくて、聞きたくなくて (ページ1)

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私は生まれつき、耳が聞こえない。

とてつもなく大きな音なら
聞こえることがあるけれど
人の声は聞こえたことがなかった。

それでも両親は私に、普通に話しかけた。

私も口の動きを読み取って、自分の声で答えた。

両親の熱心な教育のおかげで
周りの人曰く、普通に話せているらしい。

そのおかげで、周りから見たら
私も耳が機能しているように見えたと思う。

それでも、やっぱり、家族や友達の声は
少しも聞こえなかった。

それでも私は、いつも笑顔だった。

心から笑っていた。

口での会話と、手での会話、筆談…

相手に合わせて、
いろいろな会話の仕方を使い分けた。

毎日が楽しくて、楽しくて、楽しかった。

そんな私に舞い込んだ、補聴器の話。

私に合わせて作られた、私のための補聴器。

中学2年生の冬。

私は、生まれて初めて声を聞いた。

声だけじゃない。

こんなにも世界は音で溢れているんだと知った。

どこへ行っても新鮮で、楽しくて、嬉しかった。

これで、やっと、普通に声だけで会話ができる。

ふわふわした気持ちのまま、
教室の扉の前へ立ったときに聞こえた言葉。

｢このまま吉良の耳が聞こえないでいてくれた方が
私たちにとっては都合良かったのにね｣

その後の記憶は曖昧。

でも、はっきり覚えているのは

〝何も、聞こえなくて良い〟

と強く思ったこと。

そして私は再び、音の無い世界へ戻った。