優しい共犯者様へ ページ23
「ええ。良い夜でございますね、鳴宮様」
パカさんは背筋をピンと正したまま私を見下ろしてそう言って、ほのかに首を傾げた。
「ところで、こんな場所で一体何をなさっているので?」
「……あはは、ひとりになりたいときって、あるでしょう?」
自分でも、わざとらしいくらいの乾いた笑いだったと思う。それでも、パカさんは何も言わない。
きっとパカさんは、私の事情というものを知っている。下調べをした上で攫っている──と、思いたいのは、きっと私の願望だ。
パカさんは運営側だから、私に優しさを持たない。そして私は優しさなんて求めていないから、この距離感が心地良い。
微睡むように瞼を伏せて、口元で笑う。
一つだけ、お願いがあるんです、と。機械的なその人に、誰も知らない内面を吐露する。
「このこと、誰にも言わないでください。皆さんにも、運営の方にも、──視聴者の、方にも」
「……これはリアル実況でございます。そのお願いは、なんとも、」
「身勝手、ですか?」
知っている。
でも私は、そんなものよりももっと身勝手で、どうしようもなく酷い人間だから──今更、この人にそう思われたって、どうだっていい。
「プレイヤーがメンタルやられて脱落なんて興醒め、パカさんも本意じゃないでしょう?」
「ふむ。なかなかに痛いところをつかれる」
「ごめんなさい。一人時間は大切にしたいもので」
そう言うと、パカさんはふっと雰囲気を緩めた。そして、私の目の前に膝をついて屈む。
困らせて、しまっただろうか。この我儘が粛清対象になるとは思わないけれど、計算違いだっただろうか。
「そのお願いは、運営としてはお応えしかねるものですが……貴方のファンとして、叶えて差し上げても良いでしょう」
「……ごめんなさい、でも、」
「ただし、条件がございます」
私の言葉を遮るようにそう言って、パカさんはピンと人差し指を立てた。
白い手袋に包まれたそれが、私の視界を占める。これは、ある種の潔癖さでもあるのだろうか。そんな場違いな思考が頭をよぎった。
「お伝えしたとおり、ワタクシ、鳴宮様の大ファンなのでございます。ですので、ええ。……貴方の新作を、ぜひとも読みたい」
「……優しいですね、運営なのに」
「ワタクシはいつでも優しいですとも」
確かに、そうだ。パカさんはきっと、このタワーで一番、私に優しい。
──そうして、夜の静けさに隠れるように、ひとつの密約がなされた。
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kima(プロフ) - 海獣さん» コメントありがとうございます。続編はある程度書いてから投稿する予定なので、少し待たせてしまうことになると思いますが、読んでいただけると嬉しいです。 (2022年10月22日 13時) (レス) id: 6fedac0470 (このIDを非表示/違反報告)
海獣(プロフ) - マジで最高でした!!続き楽しみに待ってます!! (2022年10月21日 23時) (レス) @page42 id: b62edcffd1 (このIDを非表示/違反報告)
kima(プロフ) - なーさんさん» コメントありがとうございます。とても励みになります。更新ペースがすごく遅いですが、投稿をやめる予定はないので、気長に待っていただけると嬉しいです。 (2022年8月22日 1時) (レス) id: 6fedac0470 (このIDを非表示/違反報告)
なーさん(プロフ) - 個人的にめちゃくちゃ好みです!!更新頑張ってください! (2022年8月21日 15時) (レス) id: 64a4afe500 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:kima | 作成日時:2022年5月23日 9時