じゅう ページ10
「まず、体は大丈夫か?」
脚の手当をしながら尋ねられる。腕の手当は私が気を失っている間に済ませたのだろう。綺麗に包帯が巻かれていた。上半身を起こそうとすると、ぐわんぐわんとした頭痛が頭で鳴り響く。
「いっ...大丈夫です。ちょっと頭が痛いくらいなので」
大丈夫、と言い切っていいものか迷ったが耐えられない程じゃない。そのうち治るだろう。これ以上迷惑はかけられない。
「ほんとに、ありがとうございます。手当までしてもらって」
「俺がしたいからしたんだ。というか、頭痛いんなら大丈夫じゃねえだろ。寝てろ」
私の体をそっと倒そうとする先輩に抵抗する。これからきっと根掘り葉掘り聞かれるだろう。寝たまま話すのは気が引ける。
「大丈夫ですから。気にしないでください」
そう言うと先輩は手を止め、ゆっくりとこちらを向いた。辞めてくれ。そんな困ったような、心配しているような目を向けないでくれ。だいぶ慣れてはきたけれど、まだ、まだその手の大きな感情を受け止められる人間じゃない。
ここまできて、身勝手なのは分かっている。ただ、いつかこの人がいなくなった時に、また辛くなるのが怖かった。
「怪我をした本人が大丈夫って言っているんです。信じてください」
先輩は悲しそうな表情になった後、諦めたのか「そうか...」と零した。数秒の間を挟み、話を切り出したのはあっちだった。
「話をさせてくれ」
自分自身を落ち着けるように、ひと呼吸おいてから先輩は続ける。
「ずっと、ずっと気になってた。Aの家族のこと。でも、これはやたらに聞くもんじゃねえと思って、踏みとどまってた」
「正直、Aが俺の目の前で倒れた時、怖かった。このまま目を覚まさないんじゃないかって」
静かに、語るように話す。とっくに脚の包帯は巻き終わり、先輩は私の隣に座っていた。
「聞かせてくれ、Aのこと。」
息を吸って、吐く。目を瞑って、開いた。
「私の親は、ろくでなしなんです」
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作者名:ぽてと | 作成日時:2019年12月7日 17時