なな ページ7
私は顔を挟んでいた両手をそのまま頭に移動させ、いつか先輩がやったようにぐしゃぐしゃと撫で回した。綺麗な髪が指の間からこぼれ落ちる。
「ここ、私が初めて親から逃げ出したときに見つけた場所なんです。適当に自転車で走ってたら辿り着いて。それからも何回か来てたんです」
「綺麗な場所でしょう?」
頭を撫でていた手に、もう一回り大きな手が重なる。寒さを感じさせないほどに暖かい。
「それで、Aは俺を此処に?」
「はい……あまりにも綺麗で、親から逃げてきた罪悪感も全部吹っ飛んじゃって。だから、えっと。何が言いたいかというとですね」
先程の饒舌さは何処へやら。思うように言葉が出てこない。それでも構わず紡いでいく。
「親とか、その他諸々に縛られ過ぎない方が良いと思うんです。今日だって、家を出てこなければこの景色を知らないままだったかもしれません」
「先輩の考えもあるので、押し付けるつもりはないですし、私が口出しすることでは無いかもしれないですけど」
「でも、いつ見ても先輩の笑顔がどこか痛々しかったから」
私の手を掴んだまま先輩はいきなり立ち上がると柔らかい草の上に倒れ込む。その勢いで私もほぼ転けるように寝転がった。
「……よく見てんな、お前」
「それ程でも」
長いような、短いような沈黙。隣から呟く声が聞こえる。
「A、ありがとな」
「どうってことないです」
先輩に伝えたかっただけです。そんな言葉は、照れくさくて喉につっかえてしまう。
あぁ、なんだか。幸せだ。
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作者名:ぽてと | 作成日時:2019年12月7日 17時