ろく ページ6
ただひたすらに自転車を漕ぎ続ける。続く坂道を登る。大して運動も出来ない私の息はとっくに上がっていた。それでもここで足を止めたら永遠に辿り着けない気がして、体重をペダルにかけ続けた。
30分ほど経っただろうか。長い上り坂と平地を走りきった2人。会話はない。
「ここです」
私は道の隅に自転車を停め、脇道へと入っていく。
少し歩いたその先には、
「すげぇ……」
辺り一面の野原。頭上には何も遮るものが無い、満天の星空。月は細く光り、周りの煌めきを一層引き立てている。
「天気が心配だったんですけど、晴れてて良かったです」
先輩はまだ星から目を離さない。続けて言葉がするすると溢れ出る。わざわさここまで来て、言いたかったこと。この1ヶ月で先輩に毒された私が思うこと。前置きは無しで言わせてもらおう。
「あの、お前が何を知っているんだって思うかもしれないんですけど。先輩がめちゃくちゃ頑張り屋さんなの、なんとなく分かります。周りから天才だとか言われてたとしても」
他人からの評価を気にして、自分を押し殺していること。
「勿論持って生まれたものもあると思います。それでも、ここまで引き上げるには先輩自身の努力が必要です」
先輩はちゃんと努力している人間で、その努力を知っている人がいること。
「だから、ちゃんと自分を認めてください」
そして、自分で自分を1番認めてあげて欲しいこと。
「……情けねえなぁ」
暫くの間の後、上を向いたまま先輩が言う。その声は震えていて、今にも泣き出しそうだった。
私はつかつかと歩み寄り、そのまま顔を叩く。……わけには行かないので、脇腹を人差し指でぶすりと刺す。
「そういうところだって言ってるんです!!」
先輩はうっ、と呻き声を上げて脇腹を押さえる。顔を両手で挟み、此方を向かせる。星の輝きを写しこんだ瞳。きらりと光る。
「いいですか?先輩は凄いんです!頑張れるんです!!それがどんなに凄いことか分かってますか?!」
気圧されたような様子を見せる先輩。しかし、次の瞬間には笑顔を浮かべていた。それは今までで、見たことがないような清々しい笑顔で。
「今分かったよ」
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作者名:ぽてと | 作成日時:2019年12月7日 17時