ご ページ5
翌日、現在時刻午後9時。私はマフラーに手袋、コートと完全防備の着だるまになって先輩を待っていた。とにかく寒い。雪でも降るんじゃないか?
すっかり冷たくなった空気をひしひしと感じていると、自転車に乗った先輩がやってくる。私に反して存外薄着だ。
「うまいこと抜け出せましたか?宇髄先輩」
「なんとかな」
既に疲れを滲ませた顔で返される。様子を見るに無理にでも家を出てきたのだろう。いつも何でもない様子で公園にやって来る先輩。見栄を張っているだけかもしれない。そんなことを思っているにも関わらず、誘いをふっかけてしまって。
「……突拍子もないこと言ってすみません」
でもこれは必要な事だと思ったから。と、心の中で続ける。
この1ヶ月間で私は随分毒されていた。どうにも先輩が優しくて暖かいから、似たような感情を見つけてしまったから、居心地が良くって。家だとか、学校だとかで張り詰め続けていたものが、緩んできてしまう。
きっと、だからだ。気付けば余計なことを考えている。この人が脳内を圧迫して、どうしようもなくなる。余計なお節介をかけるなんて、首を突っ込むなんて、私らしくもない。
ぼーっと先輩の顔を眺めていると、いつもの笑顔で言われた。
「なあに謝ってんだよ。俺が自分の意思で来たんだ。Aに責任はねぇだろ?」
どこまでも真意の読めないその笑みは、この1ヶ月間で見慣れたものだった。ただ、今日に限ってはなんだか見ていられなくなって、視線を逸らしながら返す。
「行きましょう」
「あ、ちょい!待てよ!」
サドルに跨がってペダルを踏み込む。マフラーで首に押さえつけられていた髪が、風ではらはらと外に出ていった。後ろから、先輩の「どこ行くんだよ!」という声が飛ぶ。
あっという間に追いついてきた先輩にぽつりと呟いた。
「私のお気に入りの場所です」
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作者名:ぽてと | 作成日時:2019年12月7日 17時