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翌日、現在時刻午後9時。私はマフラーに手袋、コートと完全防備の着だるまになって先輩を待っていた。とにかく寒い。雪でも降るんじゃないか?

すっかり冷たくなった空気をひしひしと感じていると、自転車に乗った先輩がやってくる。私に反して存外薄着だ。


「うまいこと抜け出せましたか?宇髄先輩」

「なんとかな」


既に疲れを滲ませた顔で返される。様子を見るに無理にでも家を出てきたのだろう。いつも何でもない様子で公園にやって来る先輩。見栄を張っているだけかもしれない。そんなことを思っているにも関わらず、誘いをふっかけてしまって。


「……突拍子もないこと言ってすみません」


でもこれは必要な事だと思ったから。と、心の中で続ける。

この1ヶ月間で私は随分毒されていた。どうにも先輩が優しくて暖かいから、似たような感情を見つけてしまったから、居心地が良くって。家だとか、学校だとかで張り詰め続けていたものが、緩んできてしまう。

きっと、だからだ。気付けば余計なことを考えている。この人が脳内を圧迫して、どうしようもなくなる。余計なお節介をかけるなんて、首を突っ込むなんて、私らしくもない。

ぼーっと先輩の顔を眺めていると、いつもの笑顔で言われた。

「なあに謝ってんだよ。俺が自分の意思で来たんだ。Aに責任はねぇだろ?」


どこまでも真意の読めないその笑みは、この1ヶ月間で見慣れたものだった。ただ、今日に限ってはなんだか見ていられなくなって、視線を逸らしながら返す。


「行きましょう」

「あ、ちょい!待てよ!」


サドルに跨がってペダルを踏み込む。マフラーで首に押さえつけられていた髪が、風ではらはらと外に出ていった。後ろから、先輩の「どこ行くんだよ!」という声が飛ぶ。

あっという間に追いついてきた先輩にぽつりと呟いた。


「私のお気に入りの場所です」

ろく→←よん



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作者名:ぽてと | 作成日時:2019年12月7日 17時

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