じゅうご ページ15
しゃきしゃきと、髪を切る小気味よい音が浴室に鳴り響く。ぼんやりと鏡の中の先輩を眺めていると目が合った。
「んー、前髪も切っとくか?」
「お任せします」
あらかた後ろは切り終えていたらしく、こっちを向けと先輩に言われる。私は椅子の上で180度回転し、先輩の方を向いた。前髪を触られ、自然と目が閉じた。
昨晩のことが瞼の裏に蘇る。気づくとぎゅっと手を握りしめていた。名前を呼ぶ声が耳に入った。
「A」
「俺はここにいる」
体に入っていた力が抜けた。先輩は、ここに、いる。切られた髪が顔に落ちる感覚がした。
五分ほど経っただろうか。全て終わったらしく、顔に落ち、残っていた髪を先輩の手が払った。
「どうだ、中々良いだろ?」
という声に目を開け、後ろを振り返って鏡を見る。がたがただった後髪は顎くらいで綺麗に揃えられ、目にかかっていた前髪は眉下まで切られていた。感嘆の息が漏れる。
「すご...」
先輩はくしゃりと笑い、ご満悦の様だ。誇らしげな様子の先輩は続けて言う。
「ついでに風呂も入っちまいな。着替えは適当に用意しとくから」
「あ、はい。ありがとうございます」
ハサミと私に掛けていたシートを持って出るとそのままいなくなってしまった。私はもう一度髪を払い直すと脱衣所に出て服を脱ぎ、包帯をとる。血はとっくに固まっていた。
1つ、血の塊が取れてしまった傷からすうっ、と血が垂れた。
「もう、本当に大丈夫だから」
浴室に戻るとシャワーで血を洗い流す。思っていた程の痛みはなかった。
その後、お風呂から上がると置いてあったのは宇髄先輩のものらしきジャージ。驚きつつもちょっと嬉しかったのは別の話。
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作者名:ぽてと | 作成日時:2019年12月7日 17時