蝶は鳥にはなれずとも 4 (ページ13)

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笑えないジョーク。ページ13

『う、うん。確かに見たよ、あれはＡクラスだった。だけど、あれが本当にキーカードだったのかは分からないの。実物を、ちゃんと目にしたわけじゃないから。』
「…そうね、貴方達が確証を持てないなら、大きな成果は得られないかもしれない。」

私達が目撃したアレが本当にキーカードだったのなら、リーダーが誰なのか等の情報も得られない…と言いたいのだろう。
鈴音さんも納得したようで、すぐ傍まで近寄るとポケットに入っているカードを少しだけ見せてくれた。
どう？と聞かれるが、清隆は何とも取れない返事をする。
私もそれに倣い、首を傾げるだけに留めておいた。
そんな私達の静かな空気を壊すかのように、山内君がやって来る。

「内緒話なんて、やっぱりお二人さん仲良し過ぎんじゃねぇの？」
『山内君…』

変な茶々を入れないで、と言おうとして山内君が屈んだのを目にした。
昨夜の雨を吸い込んでドロドロになっている土を、両手で掬い取っている。
そしてそれを。
ペシャッ
何の抵抗も無く、鈴音さんの頭に擦り付けた。
ちょっと待って、と口を開く間さえ無い。
頭から泥を垂らしても尚表情を変えない彼女の姿が、何故か過去の私と被って見えた。
泥だらけだぞドロキタ、なんて笑えないジョークを飛ばして乾いた声で笑う山内君に苛立ちが募る。
あまつさえ、こういうのは彼氏が何とかしてやんねぇとと清隆のことを見た。
それ、彼女である私の前で軽口でも言わないで欲しいのだけれど。
こいつこの川に突き落としてやろうかしらと思ったタイミングで、先に鈴音さんが動いた。
山内君の右腕を掴み、それを外そうと伸びてきた左腕をむんずと掴み取った鈴音さんが身体を逸らす。
おっと、そのフォーメーションは。
今度は、山内君が声を漏らす暇すら与えられずに身体を放り投げられた。
流石、武道を習っていた人間は動きがスマートね。
…なんて、感心している場合でも無い。
鈴音さんは、かなり容赦無く投げ飛ばしていた。
弾力性のある道場の床や畳ならまだしも、落ちた先にあるのは尖った岩と冷たい水だけである。
水はまぁ…この際、罰として甘んじて受け入れなさい。
けれど、岩に直接頭をぶつけては只事じゃなくなる。
流石に、ここで流血騒ぎなんて起こってはいけないだろう。
清隆に目配せし、山内君が落下するであろう場所まで移動してもらう。
山内君が情けない悲鳴を上げながら川に落ちると同時に、清隆も上から人間を振り落とされて尻餅をつく。