蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ9)

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二度目は無い。ページ9

最後は、須藤君に向けて言い放つ。
貴方、まだ懲りてないのかな。
この前も、その態度で散々な目にあったばかりだと言うのに。
周囲のざわめきが、にわかに大きくなる。
恐らく、須藤君の名は色々な所に知れ渡っているのだろう。
この前の暴力沙汰を起こした生徒、という認識で。
誤解だったけれど、彼等からしてみればそんなことはどうだって構わない。
事実より面白い虚実があれば、人々は大層面白がってそれを利用する。
大衆の、嫌な所だ。
私は、今にも生徒に食って掛かりそうな須藤君の肩を押さえつける。
清隆程じゃないけれど、私だってそれなりに訓練した人間よ。
貴方程度、片手でどうとでも出来るんだから。
下から、厳しく睨めつける。

『須藤君、貴方はまた同じ過ちを繰り返すつもり？』

暗に、『二度目は無い』と告げる。
流石の須藤君もそれを察したように黙り込み、その隙に池君が別の店に行こうと彼を引き連れて外へ出た。
私は最後に店を出る直前、もう一度深く頭を下げて謝った。

3人に散々感謝された後、頃合いを見計らって清隆の部屋に向かっていた。
船内には、監視カメラなどの生徒を管理するための道具が無かった。
つまりこの船では、試験らしいものは行われないだろうというのが私の見解。
清隆にも、意見を仰ごうと思っている。
殆どが遊びに出払って静かな客室フロアを歩き、曲がり角を曲がろうとした。
直後、角から人影が現れる。
ギョッとして飛び退くと、反動で少しふらつく。
人影が驚いたように声を上げてから、手を伸ばして私の背中を抱えた。
まるで抱き締められるような仕草に、動揺して目を泳がせる。
やがて互いに目を合わせ、瞳に写った人物の名を呼んだ。

『か、神崎君！』
「あぁ、びっくりしたよ旋毛風。驚かせて済まなかった、大丈夫か？」
『うん、神崎君のお陰で何とか。私こそごめんね、急なことで咄嗟に動けなくて。』
「構わない。人間、ギョッとすればそんなもんだ。」
『あはっ、そうね。』

思ったより近くで会話していたらしく、吐息が頬にかかる。
やはり慣れず、瞬きが増えてしまう。
背中に回る神崎君の腕が、少しだけ強まった気がした。

『…神崎君？』
「っ、済まない！」

バッと大袈裟に腕を外し、神崎君が距離を置いた。
え、何か思う所でもあったのか。
心当たりが無いまま、キョトンとするしか出来なかった。
じゃあな、とたどたどしく挨拶をする神崎君と別れ、再び部屋へ足を向ける。
目的地は、すぐそこだった。