蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ7)

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自由のために。ページ7

清隆が、怖い。

暗い夜空を背景に、ゾッとする程無機質で火傷しそうな情を携えた瞳が私のことを貫く。
彼は、本気だ。
本気で、私のことを試している。
そして、貴方に従わないと分かったその時が私の寿命だろう。
だから、必死の思いで伝えた。
首が、ギリギリときつく絞まる。
駄目だ、意識が朦朧としてきた。
けれど、ぼやけそうな意識を何とか持ち上げながらも言葉を紡ぐ。
後半は自分でも何を言っているのか不明だったが、熱意だけは届いてほしい。
すると気持ちが伝わったのか、清隆が首から手を離した。
背中に食い込む柵からも解放してくれ、その場に咳き込みながら座り込んだ。

「済まない、試すようなことをした。」
『い、良いよ…げほっ。』

清隆が、同じようにしゃがみ込んで背中を擦る。
きつく握られていたから、多分明日には跡になっているだろう。

『私も、迂闊なことを言ったわ。清隆の気持ち、分かってたのに。』
「…」
『もう考えないよ、清隆。貴方が不安になるようなこと、自らする程私も馬鹿じゃないもの。これからは「貴方のために私が退くこと」じゃなく、「2人が共に生き残る道」を考えるね。』
「出来れば、そうしてくれ。」
『うん。』

先に立ち上がる清隆が、私に手を差し伸べる。
先程とよく似た構図だったが、今の彼の瞳からはあたたかな愛情しか見えない。
安心して、その手を掴んで立ち上がる。

『目下、私達が考えるべきはこの試験を如何に乗り切るか、ね。』
「あぁ。自由のために自由を捨てるこれからの長期戦は、一旦後回しだ。」

私達は、手を繋いで下を見る。
底無し沼のような奥で、波が立った。
ここは、海の上である。
私達が乗っているのは、豪華客船スペランツァ。
この船には、海上が一望出来る眺めの良い一流レストランや、先程まで観ていたイカロスなどの演劇が楽しめるシアター、広々としたプール、様々なアミューズメント施設、更には高級スパまで完備されている。
もし個人で旅行しようと思ったなら、軽く十万は下らない。
船内にはプールで使う水着も置かれており、全て無料でレンタル出来る。
色々と船内を見て回ったが、正直広過ぎて全てを満喫しようとしたら日にちが足りないだろう。
勿論、学校側がただ私達を楽しませるためだけにこんな豪華客船を用意したとは考えられない。
どうせ、この船内か或いは船で辿り着いた先で何かしらの試験を行う予定なのだろう。
入学時のポイントの1件で、いい加減この手には慣れた。