蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ50)

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敵いたい…なんて。ページ50

私も4期生の中ではずっと出来る方だったから、彼とはよく顔を合わせた。
どんどん難解になる問題に手こずる中でも、彼だけはスイスイとまるで最初から答えが渡されていたのかと錯覚するくらいに早々と終わらせていく。
そんな彼に追いつきたくて、私も必死になった。
けれど、どれだけ頑張っても清隆には追いつけなかった。
当然だ、彼には生まれ持っての才能と器量の良さがある。
それと比べ、私は0からコツコツと知能を築き上げてきただけ。
元より、敵う筈無かったのだ。
けれどあの時の私は、何故かやたらとムキになって清隆の隣に立とうとしていた。
今にして思えば、私はこの時から既に清隆に夢中だったのだろう。
でなけりゃ、あんなに無理はしない。

一度オーバーヒートして、気を失ったことがあった。
生まれて初めて高熱を引き起こし、暫く絶対安静を言い渡されていた。
どうしよう、これじゃあ彼と競えない。
彼と頭脳比べが出来ない。
魘される中でも、私がいの一番に考えたことはそれだった。
傍で体調を管理していた看護係の人間に、縋って頼んだ。
お願いだから、問題を解かせて。
彼が解いていたものと、同じものを。
勿論職員は、首を横に振った。
そんな状態じゃ、普段から解けるものでも出来やしないだろう。
でもでも、と子どものようにぐずった。
やりたい、出来るから…なんて。
結果、私は鎮静剤を打たれて強制的に眠らされてしまったのだけれど。
幼すぎた我儘を思い出し、ふっと笑みがこぼれる。

『清隆に敵いたい…なんて、今じゃ微塵も思ってないのが我ながら怖いわ。』

人の変わり身の速さが、今はこんなにも恐ろしい。
ふわっと欠伸が出た。
これなら、すぐに眠れそう。
私は妙にざわつく胸を誤魔化しながら、テントに戻って横になる。
明日もまた、平穏無事な1日が過ごせると良いな。
目を閉じ、明日を願う。

翌日、事件は起きた。