蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ41)

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第10話。ページ41

今でも、思い出す言葉がある。
白で埋め尽くされた部屋の中、ただひらすら黙々と目の前の問題を解いていく。
解いても解いても、終わりが無い。
カリキュラムが終わるその瞬間まで、私達は大人のための道具でしか無い…そんな空間。
そんな景色の中で、あの男は清隆を呼んでこう言っていた。

「よく、覚えておけ。力を持っていながら、それを使わないのは…愚か者のすることだ。そして、A。」

後ろで問題を解いていた私のことも、男は呼んだ。
抗っても意味が無いことはよく分かっているので、素直に声のする方を見上げる。
清隆も、振り向いていた。

「お前は、最高傑作である清隆の補佐役だ。『次世代兵器』のお前には、これからも励んでもらうぞ。清隆が常に最高の結果を残せるよう、影でサポートに徹しろ。それ以上のことは一切するな、分かったな。」
『…………はい。』

嗚呼勿論、分かっている。
私は、清隆のための存在だ。
彼のためにここで育てられ、徹底的に鍛え上げられた。
それ以外のことは、許されない。
清隆は自分のこと、何も知らない白い鳥だなんて言うけれど。
私からすれば、貴方は自由な方だ。
知りたいと思ったことを、何だって与えられてきた。
それに引き換え私は、貴方の補佐役でありサポーター。
それ以上も、それ以下も無い。
背後で糸を繋げられ、進む道も未来も何もかも操られるマリオネットだ。

光が瞼に刺さり、眩しくて覚醒する。
目を開けると、テントの簡素な壁が飛び込んできた。
あぁ、今はサバイバル中なんだっけ。
ゆっくりと起き上がり、周りを見回す。
まだ、皆眠っていた。
それ幸いとテントを出て、顔を洗って頭を目覚めさせる。
清隆以外の誰かに、寝起きのぼんやりとした私なんて見せられないもの。
川の水で顔を洗い、揺れる水面をぼーっと見つめる。
すると、ぽすんと頭に温かな何かが乗せられた。

「…A、おはよう。」
『わっ、びっくりした。清隆おはよう、いつから居たの？』

慌てて振り返ると、清隆が何処か眠そうな顔で立っていた。
よく見ると、寝癖が出来ている。
込み上げる笑みを抑えながら、しゃがんでいた己の身体を立ち上がらせる。

「お前が、テントから出てきた辺りからだな。」
『最初からじゃない、言ってよ居たのなら。』
「…いつ気づくか、試していた。」
『本音は？』
「寝起きのAを少しでも長く見ようと思ってな。」
『恥ずかしいからやめて…』