蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ5)

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怒り。ページ5

脳裏に蘇る、白い監獄を思い出して改めて誓う。
私をあそこから出してくれた清隆を、今度は私が守るんだから。
守られるだけのお姫様なら、清隆の傍に居るだけ彼の迷惑だ。

「………………そうか。」

たっぷり沈黙した後、彼が答えた。
珍しく折れてくれた、と嬉しくなる。
清隆は、私が自らを賭してまで清隆を助けようとすることを酷く嫌う。
そりゃあ私とて、清隆の自由が奪われてまで私を助けようとするのは御免だ。
足手纏いになるくらいなら、いっそ切り捨てて欲しいと切に願っている。
一緒に居たいのは山々だけれど、この我儘が彼の足枷になるなら私は喜んで離れるんだから。
そんな気持ちで清隆から目を逸らして外を眺めていると、首筋に鋭い打撃が走った。

『っ！？』

痛い、なんてもんじゃない。
問答無用で、生気を奪い取られそうだ。
ガツンと脳ごと揺さぶられるような、重い一撃。
こんなことが出来るのは、清隆しか居ない。
現に彼は、私の首筋に打ち込んだであろう右足の踵を振り下ろしている。
嘘でしょ、踵で殴られたの？！
脳震盪が起きて気絶するのを、舌を思い切り噛んで堪えた。
衝撃でぐらついた身体を、目の前の清隆が抱きとめるように支えた。
と思いきや、肩を掴んで背中を強制的に柵に押し付けられる。
反射的に、柵の掴める所に縋り付く。
ビョオッと強い風が吹き、髪の毛を巻き上げた。
背中に柵が食い込んで、とても痛い。
このままではまずい、落ちる。
下に落ちれば、それこそ終わりだ。
持ち合わせた腹筋と鍛えてきた耐性で、何とか彼を押し返そうとする。
けれど、力では彼に敵う訳が無い。
押し返され、元の場所に戻される。
なぁに、清隆ってば一体どうしたの？
私に覆い被さるように力を込めた清隆の瞳には、何とは捉えられないような激情が籠もっている。
それで、やっと私も現状を理解した。

清隆、めちゃくちゃ怒ってる。

いつも無表情な彼の顔からは、相変わらず何も汲み取れない。
だが、怒りだけは明白に分かった。
何か、何か言わなければ。

『き、清た』
「Aまで。」
『…』

瞳も、声も冷たい。
何も言われずとも、口が勝手に閉じる。
あまりの圧迫感に、息さえ出来ない。

「Aまで、俺を置いていくのか。」

「俺にあれだけ甘い蜜の味を教え、依存させたAまで、俺から奪うのか。」

「あまつさえ、俺の代わりにホワイトルームに戻るのか。」