蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ39)

今日:10 hit、昨日:59 hit、合計:28,442 hit

心当たりが無い。ページ39

話し合いも終わり、一部の人間だけが輪に残った数分後。
私は、伊吹さんの近くに寄っていた。
どんな意図があるにせよ敵であるDクラスに拾われ、一体どんな表情をしているのか少し興味があったからだ。

『ごめんなさいね、伊吹さん。もう少しだけ、待っていてほしいの。』
「…あ？」

ギロリ、と伊吹さんか私を下から睨みつける。
その目つき、心なしか龍園君に似ているわね。
…なんて言ったら、物理的に口を結われそうだけれど。

『今向こうで、平田君達が貴女のことについて相談しているから。』
「別に、無理しなくて良いって。どうせ、私はすぐに追い出される。」
『どうかな。うちのクラス、お人好しが多いから。』

良い意味でも悪い意味でも、ね。
暗にそう気持ちを込めて微笑むと、俯いていた伊吹さんがふと私を見上げた。
その目に、敵意は無い。

「ねぇアンタ、龍園に何したの？」
『龍園君？』
「アイツが、あんな無条件に誰かに手を出そうとするなんてあり得ない。絶対何かしらあったんだろ、だからアイツはあんなヤケになってアンタを求めてる。なぁ、一体アイツに何したんだ？」

まくしたてるように言葉をぶつける伊吹さんに、私はどう答えたものか考えあぐねていた。
何故なら、私からは本当に何もしていないからだ。
私から何かアクションを起こし、それに龍園君があてられたのならまだ分かる。
ただ私の場合、本当に何もしていない。
心当たりが無いので、彼を防ぐ手立ても浮かばない。
時折遭遇して、会話をして。
ただ、それだけなのに。
やたら私に執着する彼のこと、よく分からない。
世界はあの白い監獄だけで終わりじゃないのだなと、つくづく思い知らされる。
だって、理屈で語れることばかりじゃないから。
暫く黙りこくる私に痺れを切らしたのか、伊吹さんはもう良いやと言うように首を振った。

「もう良い、何でも無い。だけど…私が言うのも何だけど、アンタ気をつけなよ。」
『え？』
「アイツ、相当しつこいから。」
『…ふふっ、うん。』
「あ？何笑ってんだよ。」
『ううん。アドバイスありがとう、伊吹さん。』

堪えきれず、小さく吹き出す。
ツンツンしてるのにこっちに気を使って、怖いんだか優しいんだか。
クスクス笑う私のことを、訳が分からないと言うように頭を搔いて見つめた伊吹さん。
ふと、私の後ろに視線をやった。
振り返ると、桔梗さんがこちらに向かってきている。