蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ37)

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物欲しそうな目。ページ37

己に動揺していると、神崎君の手が頬を通って動く。
やがて。

『…ふぎゃっ！』
「そんな目で男を見上げるな、A。」

鼻を摘まれた。
可愛げない声を上げて目を瞑ると、神崎君が呆れたように手を離した。

『そ、そんな目って…』
「乞うような、物欲しそうな瞳だ。」
『してないよ！？』

反射的に返すが、神崎君は信じないと言うように首を横に振る。
はて、そんな顔は演技でだってしたこと無いのに。
考え込んでいると、神崎君はそろそろ戻ると言った。

「また会おう。今度会う時は、1人の友達として。」
『そうだね。』

にこやかに手を振り、神崎君の姿が見えなくなったところで私も振り返って歩き出す。
もしつけられでもしたら迷惑だが、誰かがついてくる気配は無い。
来た道を、駆け足で進む。
道草を食ってしまった、今頃皆戻っている頃だろう。
私が根城に戻ったのとほぼ同じタイミングで、桔梗さん達も腕に様々な果物を抱えて帰ってきた。
これ食べられるのかなぁと小さな果物を持ち上げながら言うので、遅れた詫びも兼ねてそれに答える。

「ブルーベリーかなぁ。」
『これはクロマメね、こんな森の中にもあるものなんだ。』
「え、そうなの？それじゃあAちゃん、これは何？」
『無花果(イチジク)ね。完熟していれば、そのまま皮ごと食べられるわ。美容にも効果があるから、女子達にはもってこいの食材よ。』
「旋毛風ちゃん、よく知ってるね！」

池君が、感心したように声を上げる。

「それに無花果って、固くてもその酸味もまた癖になる美味しさなんだよ。いやぁ懐かしいな〜！」
「へぇ、そうなんだ。」
「池君も旋毛風さんも詳しいんだね、心強いよ。」

軽井沢さんと平田君が目を丸めて驚いているので、私はひらりと立場を変えた。
池君同様キャンプについての知識が豊富な私から、池君を褒める何も知らない私へと。
両手を振りながら、弁明するように笑って見せる。

『私は、本で読んだ知識をさも自分のもののように語っているだけ。けれど池君は、本当に凄いよ。焚火も、池君のお陰だもの。』

この言葉を皮切りに、皆が口々に池君を褒め始める。
暫く嬉しそうにしていた池君だったが、ふと真面目な顔に戻った彼は軽井沢さんに謝罪した。
突然のことにギョッとした様子の軽井沢さんに、池君がかつての自分を思い出したと罰が悪そうに俯く。
皆が池君に注目している隙に、私は輪から外れて清隆の隣へ向かった。
清隆が、小声でおかえりと言ってくれる。