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他愛も無い喋り。 ページ36

ギョッとしたのを、気配で感じる。
少しだけ笑いながら、私は若干顔を引き攣らせてやることを見守っている神崎君に告げた。

『ごめん。けれど、別に悪いものじゃないから。』
「それはそうなんだろうが……今磨り潰した葉は何だ?」
『チドメグサよ。その名の通り、止血効果がある雑草。これを潰した際に出た汁を傷口に塗ると、血が止まるの。』

直径1cm程の小さな葉を、もう1枚千切って神崎君に見せる。
しげしげと眺めた神崎君は、感心したように私に笑いかけた。

「凄いな、こんな大自然でこれだけの草の中から目的のそれだけを探し当てるなんて。」
『知識として、知っていただけよ。』

軽々しく嘯きながら、ツンとする匂いが漂う傷口を覗き込む。
…うん、止血出来たようだ。

『これでもう血は出ないと思うけれど、気になったらちゃんと洗って然るべき処置をしてね。』
「…いや、俺はこれが良い。このままで居るよ。」
『そう?』

手当した傷を何故か慈しむように暫く見つめていた神崎君が、次いでその瞳を私に向けた。

「借りが出来てしまったな、A。」
『そんなこと気にしないで。貸し借りを作りたくて、こんなことしたわけじゃないから。』

…ん?今名前で呼ばれた?

「…」

遅ればせながら名前で呼ばれたことに驚いた私を、言葉も無く見つめる青年。
風が強く吹き、磨り潰した雑草の香りが鼻に纏わりつく。
何かを話そうと思っても、何故か口が開かない。

「Aは、貸し借りなんて頭に無いんだな。この学校じゃ、稀有な存在だ。」
『そう、かな。』
「あぁ。君と居ると、学校の張り詰めた空気を忘れられる。」
『そう思ってくれているのなら、良かったわ。私も、神崎君と話すと楽しいもの。』

神崎君が、一歩足を踏み出した。

「ありがとう。なぁ、君さえ良ければまたこうして話さないか?」
『私と?良いけれど、クラスの情報を渡すことは出来ないよ。』

また一歩、近づいてくる。

「勿論だ。単なる同級生同士の他愛も無い喋りに、そんな無粋なものは差し込みたくない。」
『あはっ、無粋なものって。』

吹き出すと、いつの間にかすぐ傍まで来ていた神崎君の右手が頭に乗る。
つむじから、毛先にかけて。
細くしなやかな指が、毛の波に沿って動いた。
その触り方に、柄にも無く心臓が跳ねた。
神崎君の切れ長の瞳が、私を暴くように射抜く。
指先が、頬に触れる。
何で、こんなに動けないの。
何で、神崎君から目を逸らせないの。

物欲しそうな目。→←怪我。



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沙羅(プロフ) - 橋本ー!!!!ありがとうございます!この小説に橋本と龍園が出てくるだけで最高にテンション上がります!これからも応援してます! (3月27日 1時) (レス) @page22 id: e669b9fbcc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2024年3月18日 18時

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