蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ35)

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怪我。ページ35

日も暮れて、少しずつ夕闇が侵食し始めた森の中。
鬱蒼とした葉に混じって、良さげな木の枝が沢山落ちている。
屈んでは拾ってを繰り返していると、やや遠くで清隆が山内君と肩を組んでコソコソと話している。
…というか、勝手に肩を組まれて一方的に話しかけられている。
ドンマイ清隆、と念だけ送って私は更に奥へと踏み込んだ。
彼らの枝の量さえあれば夜は難なく超えられるだろうが、万が一ということもある。
何せ自然の中、天気予報すら知らないのだ。
急に天気が変わることも、十分に考えられる。
足元をよく見ながら歩いていると、小さな悲鳴のような声が聞こえた。
何事？とそちらを見渡すと、赤いジャージが目に留まる。
良かった、取り敢えず相手は人間だ。
しゃがんでいるのでよく分からないが、その人物はやがて立ち上がって袖を捲った腕の辺りをしきりに擦っている。
その骨格や雰囲気、髪型を見た私はこの偶然に驚いた。
見知った後ろ姿である、私は枝を抱え直して声をかけた。

『神崎君。』
「っ、驚いた。君か、旋毛風。」
『私もびっくり。よく会うね、私達。』
「本当だな。何をしていたんだ？」

左腕を抑えながらこちらへ向かってくるので、私は素直に抱えていた枝を見せる。

『焚火で使う木の枝を、集めていたの。今のうちにやっておかないと、もう日が暮れちゃうでしょ？』
「そうだったのか。」
『神崎君は？』
「俺も似たようなものだ、使えそうなものを見繕っていた。」
『…ねぇ、さっきから腕をずっと抑えてるけれどどうかしたの？』

気になったことを尋ねると、神崎は恥ずかしそうにそっぽを向いた。

「見られていたのか、年甲斐も無くウロウロしていたら怪我してな…ほら。」

神崎君が、抑えていた手を外して見せてくれる。
抱えていた枝をその場に置き、差し出された左手を握ってよく見ると、左手首の上辺りに小さな切り傷が出来ていた。
恐らく、飛び出している尖った枝にでも引っかけたのだろう。
ここは舗装もされていない自然である、振り向き様に…なんてことはザラだ。
現に私も、さっき枝で皮膚を切りかけた。
握られた左手がぴくりと反応するが、それは無視して傷口を確認する。
大した量の血液ではないが、放置しておいても気分が悪くなるだけだ。
私は手を握ったまま、辺りを見回す。
やがて、見知った植物を見つけたのでそれを少しばかり拝借した。
小さな葉を磨り潰し、滲み出てきた汁を人差し指で掬ってそれを傷口に塗った。