蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ34)

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これだけじゃない。ページ34

『私はキャンプなんて知識でしか知らないから、こうして経験を積んだからこその判断を尊敬してる。誰にだって出来ることじゃないのよ、池君。』
「旋毛風ちゃん…」

私の心の籠もらない上辺だけの言葉にも、池君は信じて嬉しそうに笑う。
それに歩調を合わせ、川に器のようにした両手を突っ込む。

『どれどれ、私も飲もうっと。』

池君が、慌てたように手を広げた。

「えっ、え！？けど、抵抗あるなら無理しなくても！」
『言ってるでしょ？抵抗なんて無いし、嫌でも無い。私は私の意思で、飲みたいと決めたの。』

ひんやりと冷たい水を掬い、一口含む。
……うん、変な癖も無いし飲めそうね。
万が一お腹を下すようなことがあったとしても、その時は運が無かったと諦めよう。
何も試験は、これだけじゃない。
これからで、巻き返していけば良いだけの話だ。

『うん、冷たくて美味しい！』

先程までの疲れも吹き飛ぶ新鮮さに、偽りの無い笑みが溢れる。
池君が、もっと楽しそうに笑った。

その後は、比較的やることは早かった。
焚火の出来るスペースを作り、テントを組み立てる。
清隆と共に葉を拾い集めていると、平田君が話しかけてきた。
曰く、夜になる前に焚火に使う枝を拾ってきて欲しいとのこと。
二つ返事で引き受けた清隆は、当然のように私を頭数に入れて他についてきてくれそうな人を探す。
適当な所に葉を置いて誰かに声をかけてこようかと聞こうとすると、いつの間にか聞いていたらしい鈴音さんが口を挟んだ。

「彼もクラスの中心の割に、貴方を頼るしか無いなんて…情けないのね。」

言うことは尊大だが、その姿は岩に腰掛けたままだ。
体調が芳しくないと推測してたけれど、やはり間違い無いらしい。
苦笑しながら、その隣に座る。

『随分な言い方ね、鈴音さん。補佐くらいしたらどうなの、リーダー。』
「力になれることは、何も無いわね。敵やゴールがあるなら、考えようもあるけど。」

言いながら立ち上がり、手伝おうとしてくれるのかと期待した。
が、鈴音さんは私達の横を通り過ぎる。
そのまま、テントの中に入ってしまった。
清隆が、枝拾い…と呟いた。
仕方無いかとため息を吐いて、他の生徒を探す。
各々やることがありそうだったが、ふと視界に愛里さんがうつる。
何やら、こちらをじっと見つめていた。
傍には、山内君の姿もある。
清隆の裾を引っ張りそれを伝えると、頷いた清隆が2人の元へ向かった。