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後悔。 ページ4

「アンタ…それでも教師か。」

清隆の唸るような低い声に続けて、私も髪の毛を引っ張りながら耳元で呟く。

『これ以上がっかりさせないで、まだ貴女を「先生」と呼ばせて頂戴よ。』

先生は、我々の豹変した態度など気にすること無く、冷めた目で私達を見上げてくる。

「今、ここで決断しろ。Aクラスを目指すか、退学するか。」

視界の奥では、太陽に喧嘩を売って身を滅ぼしたイカロスが、父の手に抱かれていた。
ぞわり、と毛が逆立つ。
嫌だ、イカロスのように愛されているなら兎も角。
あんな奴らの手に、また堕ちるなんて。
面倒事を避けたい気持ちと、彼等の所有物に戻る「もしも」とを天秤にかける。
ガチャンと振り切った私の「答え」を、清隆も察したようだった。
演目が終わって、スポットライトが消える。
清隆が襟元を離したので、私も先生の髪の毛を手放す。
長く綺麗なそれが、今だけは憎々しく思えた。

「後悔するかも知れませんよ、俺達を利用しようとしたこと。」
『それでも良いんですね?』

というか、絶対に後悔させてあげる。
私達を手先の道具にしようだなんて、随分と荒唐無稽なことを考えるのね。
私達が、貴女に都合の良い弾丸だけになるとでも思ったの?
その気持ちを込めて言うと、初めて先生は自嘲気味に笑みを見せた。

「安心しろ。私の人生は、既に後悔だらけだ。」

それだけ聞いて、私達はさっさとその場を離れた。
これ以上あの場に居たら、怒りで先生を壊してしまいそうだった。
私の握り締めた拳に気付いた清隆が、歩く最中でその手を包み込んでくれる。
血の気が失せる程強く握っていた掌をこじ開けて、血を通わせてくれた清隆。
階段を登りながら、清隆に言う。

『とうとう来たんだね、アイツ。』
「…あぁ。」

目は、合わない。
けれど、それで良い。
合わせなくても、分かるから。
きっと彼も、私と同じように覚悟を決めた瞳をしている。

『もし、清隆か私のどちらかを退学させろなんて言ってきたら、どうしようかと思ったわ。』
「どうするつもりだったんだ。」
『そりゃあ決まってるでしょ、私が帰るよ。』

風通しの良い外に出て、深呼吸した。
私の言葉に、清隆が足を止める。

「駄目だ。」

言うと思った。
けれど、私とてこればかりは譲れない。

『嫌よ。清隆が幾ら何と言おうと、この決断は変わらない。貴方には、この学校で自由になってほしいの。勿論様々な制限はあるだろうけれど、少なくともあの場所よりはずっと良い。』

怒り。→←第8話。



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沙羅(プロフ) - 橋本ー!!!!ありがとうございます!この小説に橋本と龍園が出てくるだけで最高にテンション上がります!これからも応援してます! (3月27日 1時) (レス) @page22 id: e669b9fbcc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2024年3月18日 18時

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